聞いただけで背筋が凍り付くような拷問は数々あるが、虫責めという名前を聞いたことはあるだろうか。串刺しや三角木馬というネーミングと比べたら命だけはどうにかなりそうにも聞こえるので、「虫責め?大したことなさそう」と思う人もいるかもしれない。名前だけでは恐ろしさがよくわからないこの拷問、いったいどんなものなのだろうか。
夏の風物詩といえばスイカに花火、カブトムシ…それに忘れちゃいけない例の虫…そう、蚊だ。突然痒みを感じて見てみると、血を吸ったお腹の膨れた蚊がいることに気づく。しばらくすると痒みはさらに増し、赤く膨らんだ点はどんどん大きくなっていく。日本では、酒を塗りたくられて身体の自由を奪われた罪人を夏の戸外に放置、蚊柱が立つほどのヤブ蚊に襲わせるヤブ蚊責めの刑が存在した。同じように罪人を蚊に襲わせた中国、アリ塚の上に大量の蜜をまぶして放置したアフリカ…虫責めの刑、想像するだけで全身が痒くなってきたような…。
だが本当に恐ろしい虫責めは、こんなものではすまない。
頭と手足を置けるように縁をくり抜いた小舟に罪人を横たえ、その上に同じ小舟をひっくり返して乗せ、外れないようにボルトで固定する。空気は入るが、小舟の中に閉じ込められた状態だ。蜂蜜と牛乳、大量の食べ物を無理やり流し込まれた罪人は当然ながら嘔吐してしまう。顔の周りは吐瀉物にまみれ、なおかつ小舟の中は排泄物まみれになっていく。しまいにはウジが湧き始め、顔や体など外側からは羽虫たち、内臓はウジやハエが食い散らかしていく。…こんな刑を編み出した古代ペルシャ人は、こんなに不快な気の長いパズルをどうやって思いついたんだろう…。しかも、罪人が死んだらそのまま放置したり小舟ごと火をつけたりするのではなく、わざわざ上の小舟を外して死体を処理していたという。…そんな仕事には死んでもつきたくない…が、こんな刑罰を受けるよりはましかもしれない。
古代から近代まで…国によってはごく最近まで存在した拷問。それは人間の残酷さを浮き彫りにする、歴史的な資料でもある。