感覚遮断

本気で恐ろしい拷問シリーズ 白い拷問

 肉体的な暴力は伴わず、ただ「真っ白な世界」に閉じ込めて精神を破壊する―現代でも行われている「白い拷問」だ。身体に傷がつかないため証拠が残らず、ばれても批判を躱しやすいというのが何とも卑劣だ。だが経験者によれば、その苦痛は死にたくなるほど凄まじいものだという。

 この拷問の特徴は徹底的な「感覚遮断」だ。窓がなく、壁も床も天井も真っ白な部屋での監禁。着せられる服も白、提供される食事も白い皿に白い米。照明は24時間落とされず、徹底的な防音によって自分の呼吸音と心音以外には何も聞こえない。

 人間は外部からの刺激で自己を認識している。だから色や音などの刺激がない無機質な空間では脳が飢餓状態に陥って幻覚や幻聴が起きる。時間の概念が消えるまではわずか数日だ。この拷問を受けた一人は解放されてからも「白」を見るとパニックを起こし、社会復帰までに数年かかった。

 イランでは政治犯やジャーナリストが白い部屋に放り込まれてきた。8ヶ月を過ごした医学生は「殴られるほうがましだった」と話している。現在も刑務所の中にいるナルゲス・モハンマディは逮捕13回、刑期の合計は31年という女性活動家で、自分が受けた拷問と獄中で集めた証言を『White Torture(白い拷問)』という本にまとめ、ノーベル平和賞を受賞した。

 イランだけだと思ったら大間違いだ。アメリカ同時多発テロのあと、CIAは容疑者に対してグアンタナモ湾や各収容施設でこれを行っていた。強化尋問技術などという真っ当な雰囲気の名前がついていたが、その内容はゴーグルと耳当てで刺激を遮断して白い部屋に拘束するというまさに白い拷問だ。ベネズエラの情報機関にもラ・トゥンバ(墓)と呼ばれる白い独房があるようで、おそらく報告されていないだけで世界中に似たような部屋があるのだろう。

 アムネスティ・インターナショナルなどの人権団体は心理的拷問として非難しているが、白い拷問は独裁国家や情報機関にとっては合理的だということで使われ続けている。肉体的への暴力ならそのうち麻痺して痛みを感じなくなるかもしれない。だがこの方法は自分というアイデンティティーを内側から崩壊させていく。私たち人間にとって、何も存在しない「虚無」はとてつもなく怖ろしいものなのだ。

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