【ピラミッドテキストでの月の神コンス】
古代エジプトのテーベ(現在のルクソール)で信仰されてきたコンスという神がいる。この神は太陽神のアメンと地母神ムトの子供で月の神として知られる。またトートの一側面を表すと言われることもあるという、なかなかの大御所的な神だ。
コンスはサッカラにあるウナス王のピラミッドに書かれていた、いわゆるピラミッド・テキストの中の『食神賛歌』と呼ばれる文章で有名になった。※テキスト全体はこちら ピラミッド・テキスト 273章-4 食神賛歌 別窓で開きます
「ウナスが力と共に現れたのを見たからだ。父を食らい、母を食物とする神として。」「彼(ウナス)はすべての神を食らって生き、彼らの内臓を食らう」などの記述だ。ここではウナスのために人々や神々を捉え、料理を手伝う神について言及されている。このことから神を食べることを称える=食神賛歌と呼ばれるようになったようだ。ちなみに古代エジプトで食べられた痕跡のある骨は見つかっておらず、実際に人を食べていたとは考えづらい。
【神々と”マアト”】
では、このピラミッド・テキストはどういう意味なのか。これは、多くの神々に先立って原初の丘に現れたマアト女神がヒントになりそうだ。マアトは「宇宙・神の創造の秩序や法則」という概念を擬人化した神だ。この秩序にはすべての神々も従わなければならない。ファラオは法と正義に従う者として、冠にマアトの紋章を描くことも多かった。
神々は人間にマアトを与えてその分を補充しなければならない。これは「マアトを食べる」と表現された。ハトシェプスト女王の碑文では「私はアメン・ラーがマアトによって生きていると知っている。マアトは私の糧で、私はその輝きを食べる」と書かれている。
ウナス王のピラミッドもおそらくは同様に「神々の力を取り入れる」という意味だろう。これは形而上学的な概念の話だ。古代エジプトは二元性を重視しており、祭祀でも日常生活でも二元性という概念が私たち以上に「あたりまえ」だった。
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