【神に捧げられる贄】
世界中の多くの場所で、動物たちは生贄に捧げられてきました。山羊、羊、鹿、熊、狸…。場所によってどの動物かは変わりますが、私たちにとっては鹿と熊がイメージしやすいのではないでしょうか。
生贄という言葉を聞くと、反射的に「残酷だ」と感じるかもしれません。それはおそらく、死という概念が私たちの社会の中で忌わしいものだと考えられてきたからでしょう。
かつて諏訪の御頭祭で贄となった75頭の鹿の中に、毎年必ず「耳裂けの鹿」がいたと言います。この鹿は「神の矛にかかった」とされ、諏訪の七不思議・神野の耳裂鹿と言われています。この鹿は諏訪で古くから信仰されたミシャクジ神に捧げられてきました。現在の御頭祭では剥製の鹿の首が使われ、鹿肉の缶詰が奉納されています。
【諏訪・御頭祭の鹿たち】
茅野市にある神長官 守矢史料館では、諏訪の御頭祭の様子が復元されています。壁には鹿と猪の首が並べられ、兎や耳裂けの鹿も展示されています。この様子を「怖い」「グロテスク」などと書いたブログなども散見されますが、そこで思考を止めてしまっていいのでしょうか。
展示品の中には鹿狩りに使われた弓矢などもあります。日本全国では鹿の角で怪我人が出たり、死亡事故も発生しています。鹿狩りが行われていた旧御射山遺跡周辺には現在でも多くの鹿が生息していて、訪れたときにはすぐ目の前に番の鹿が現れたりもしました。鹿は一方的に狩られるだけの存在ではありません。生き残るために人間と戦い、敗れ、その結果神に捧げられたのではないでしょうか。
狩猟を行っていた頃を考えれば、人間側も命を落とすことは多々あったはずです。食糧を得ようとする人間は危険を冒して戦っていたことになります。結果として命を落とした動物を神に捧げて敬い、今後の恵みを願ったのでしょう。
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