古代エジプトには、第一中間期と呼ばれる混乱した時期がありました。数百年続いた古王国が崩壊し、地方分離が行われていた第7王朝から第11王朝までの時期がこれに当たります。一説によると、のちにプトレマイオス朝の神官・歴史家だったマネトが「70人の王が70日間統治した」と言ったほどの混乱ぶりだったようです。
こんな時代に記されたのが『イプエルの訓戒』です。オランダのライデン博物館に収蔵されているこのパピルスは、荒廃した社会状況を嘆き、批判したものです。人々の道徳心は低下し、有力者たちが争う状況…。貧しい人は働かずに強盗になったり、死んでしまいたいと言ったりする人も多く、国中に不平と嘆きが広がったと書かれていました。疫病が広がって死者だらけだった、川は血の川になったとも書かれています。
この状況は、現在の日本とも共通するのではないでしょうか。政治家たちは自分の利益ばかりを追求した挙句「不記載議員」の問題を起こし、人々は高い税金に苦しんでいます。若者たちが闇バイトで強盗やそれ以上の罪を犯したというニュースも珍しくなくなりました。およそ4千年前のエジプトと同じように、今私たちも国とその未来に希望を見出せなくなっているように思います。
イプエルは「世界がひっくり返ってしまった」と嘆きましたが、古代エジプトは混沌の時期を乗り越え、華々しい文化を花開かせました。私たちはファラオでも貴族でもない一般市民として、イプエルの時代とは違う形で社会を安定させなければならないのではないでしょうか。
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