ドイツを始めとする67か国で、伝統的な叡智を伝え続けてきたグリーンランドのシャーマン、アンガンガー。彼は77歳の誕生日を迎え、生まれ育った町カンゲルルススアークでの生活を選びました。祖母からの教えや叔父の名前から自分の名前がつけられたエピソードなど、家族に受け継がれてきた叡智を惜しみなくシェアしてくれます。アンガンガーの語る内容はどこか懐かしく、また人々に「気づき」を促すものです。
アンガンガーの信念のひとつに「氷を溶かし、心を溶かす」という言葉があります。グリーンランドで、それまで溶けているのを見たことがなかった場所の氷が溶けているのを見つけた時、彼らは衝撃を受けたと言います。氷が解ければ海面は上がり、海面が上がれば川も水かさを増す…。氷を含めて、水は世界中に影響をもたらすのだと彼は説明しました。
彼は私たちの心の中にも「氷」が存在すると指摘します。無関心や自己中心的な思考など、自然や他者とのつながりを遮る「氷」。こうした内なる「氷」を溶かすことで他者とのつながりを取り戻し、地球環境を守っていく道が開けるとアンガンガーは伝えています。シンプルですが、心に響くメッセージです。
アンガンガーが育ったのは、厳しい自然が広がるグリーンランド。氷、雪、風、そして動物たち…自然のすべては彼にとって「生きている存在」でした。自然を尊重し、共に生きるという視点は、自然を単なる資源としてしか見ない現代の社会とは異なるものです。温暖化や異常気象など、私たちは自然保護について真剣に考えなければならないところまで来ているのではないでしょうか。
また、アンガンガーは「世界を変えるには、まず自分自身の心を変えることから」と言っています。自らの内面で起きた変化は周囲の人々に影響を与え、やがて世界全体に広がるという信念です。外の世界を変えたいと願うとき、自分ひとりの力は小さく感じられるかもしれません。けれどその小さな力は、少しずつ確実に世界を変える力として蓄積されていくのです。無関心という心の氷を抱いたままでは、地球の危機は解消されません。
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