調べれば調べるほど「人間ってこんなに残酷になれるんだな…」と遠い目になってしまう、本気で恐ろしい拷問シリーズ。今回は古代国家だったスパルタで考案されたという「ナビスのアペガ」。何言ってんだという名前だが、ナビスはローマとの戦いに負けて独立を失った最後の王、アペガはその妻の名前だ。日本だとアペガの像と呼ばれることが多いかもしれない。
この最後の王ナビスは多くの歴史書に登場するが、大のナビス嫌いで知られるのがポリュビオス。比較的公平な歴史家として評価されたポリュビオスだが、父親がスパルタと敵対したアカイア同盟の指導者な上に故郷をスパルタに破壊されたという背景があり、まあナビスに対しては手厳しい。「神をも恐れぬ血に飢えた最悪の暴君」として描かれる中に登場するのが、今回の「ナビスのアペガ」という拷問器具だ。現代の歴史家の中には実在を疑う声もあるが、アイアン・メイデン(鉄の処女)の元ネタはこれだとも言われる。
ナビスが市民からお金を巻き上げようとする。拒否するとナビスはこう言うのだ。「わしはおまえを説得できないわ、うちの妻なら説得してくれると思うんだよねー」。残忍で欲望にまみれた夫婦だったと言われ、妻のアペガも男性たちの妻を辱めて彼らの名誉を失墜させていたとか。鉄で作られた「ナビスのアペガ」はその邪悪さや欺瞞を擬人化した拷問器具と書かれている。
見た目は鉄でできた古代ギリシャの彫刻。腕はばね仕掛けになっていて、人の体を押しつぶせるようになっている。腕と手、胸は無数の釘や針が備えられ、それを隠すために高価な服を身に纏っていた。ナビスが気に入らない人間を人形の前に連れてくる。例えば酔っぱらって彼女を抱きしめようとすると、アペガの腕が犠牲者を捕えて押しつぶそうとするのだ。犠牲者はナビスの要求に応じるか、死を迎えるかの二択しかなかった。
この仕組みはエリザベート・バートリの吸血人形、トレドで見つかった慈悲の聖母といった人形に継承された。吸血人形はその腕で犠牲者を捕え、観音開きの体内には無数の針で血を絞った。聖母像は目からナイフ、胸から鉄杭が飛び出して強い腕の力で異端者を一撃にした。人、しかも女性の形をしていて一瞬ほっとしたかもしれない犠牲者の気持ちを考えるとうう… となってしまう。自分の思い通りにならないからって腹を立てて命を脅かしてくる王も宗教者も若さに固執した人もいやだよ…。
まだ世界ではこっそりと行われているかもしれない拷問。世界が完全なる平和!なんて実現しないかもしれないけど、自分側だけでなく敵対するような人も人間だってことを胸に刻んで生きようと思います。