【普通って何だろう】
パートナーとけんかしたときに「普通こうじゃない?」なんて言われたことはないでしょうか。そんなことを言われても、私は納得できない…と思ったことがある方も多いのではないかと思います。
そもそも、「普通」とは何でしょうか。多くの人が考えていること?一般的であること?もしそうだとしたら、世界は多数決でできていることになります。(そういった側面は多々あるかもしれませんが)。いずれにせよ、多数派ではないとしても、自分の思いを変えるのは難しいですよね。
ガボール・マテという精神科医が先日コペンハーゲンで講演を行いました。「The Myth of Normal: Trauma, Illness, & Healing in a Toxic Culture(普通という神話:毒性のある文化の中でのトラウマ、病気とヒーリング)」という会場で1500人、世界中で3万5千人以上が視聴した大規模なイベントです。ガボールはここで「普通」という考え方について批判的に述べています。それは人にストレスを与え、結果的に病気を生み出すような思考だからです。
【精神科医・ガボール・マテ】
ガボール・マテはハンガリーのユダヤ人家庭に生まれ、現在はカナダで活動しています。2022年の『The Wisdom of Trauma』は世界中で視聴された彼のドキュメンタリーです。トラウマを持つ患者たちとの信頼関係やガボール自身のトラウマが説明されています。
彼は自分の内側を見つめることを重視し、内容はスピリチュアルにも跨がっています。※『The Wisdom of Trauma』トレイラー(英語)、TED ガボール・マテ『依存の力、力への依存(日本語字幕つき)』
『身体が「ノー」と言うとき』は日本語訳もされた著書です。患者たちとの様子や感情がどう病気を生み出すかなどが描かれています。ストレスやトラウマは出来事自体ではなく、そのときの感情によって生まれると説明し、心と体は切り離せないと言います。
【普通という神話】
カナダやアメリカでは、黒人の寿命は白人より短くなっています。これは差別されることで社会的にストレスを受けるからだと言います。その社会にとっては白人が「普通」なのです。暴力的な独裁者として知られる人間のうち、ナポレオンはフランス人ではなくコルシカ人です。そしてヒトラーはオーストリア・ハンガリー帝国の生まれでした。彼らは自分の住む社会で言えば「普通」ではなかったのです。
いわゆる「いい人」…「やるべきこと」のために怒りを抑え、誰かのために自分を犠牲にする人は病気になりやすいことがわかっています。そしてガボールは、これは無意識にプログラミングされたものだと説明しています。例えば怒りは他者との境界を引くための感情なのに、それを抑えるよう育てられることで人は感情を奥底に沈め、直感から切り離されるという結果を生みます。
無意識から自由になることの重要性をガボールは説いています。そのためにはまず、痛みを受け入れる必要があると。痛みを超えて深く自身を知れば、痛みから学ばなければならない状況を打破できるのです。逆説的ではありますが、メタフィジックスなども同じ考え方です。 (後編に続く)