※トラウマを癒やす精神科医 ガボール・マテ博士(前)から続く
【全体性に還る】
ラコタ族の伝統では、誰かが病気になったとき「あなたの病気はコミュニティ全体に何かを伝えるメッセージだ」として感謝を捧げると言います。コミュニティがバランスを崩していて、誰かの病気によって正す必要がある場所が見つけられるのです。彼らは「あなたの癒やしは私たちコミュニティ全体の癒やしである」と考えています。
逆に言えば、社会が息苦しくて住みづらくなったと感じる人が増えればそれだけ病気になる人も増えていくということになるでしょう。これは南米のシャーマンたちの考え方とも共通しますが、私たちは生きているエネルギーの世界に住んでいるのでお互いに影響を与え合わずにはいられないのです。
ガボールはメディスンホイールについて、分割された四つのエリアのひとつは身体・生物学的な側面だと説明します。もう一つはメンタル・感情、もう一つは人づきあいなどの社会的な側面、そしてもう一つはスピリチュアルの領域です。これらのバランスが大切だとガボールは言います。すべては関わりあっていて、その全体が「あなた」という人間を表しています。
【感情の働き】
免疫系はストレスによって大きな影響を受けることがわかっています。免疫系は体に悪影響を及ぼすバクテリアや物質を排除する働きを持ちます。その前には怒りや悲しみなどの感情が、原因となる状況から遠ざかるよう伝えています。
例えば怒りを感じたら、それを適切に表現できる方法を見つけることが大切です。子供のように反射的に大きな声を出すのではなく、落ち着きを取り戻す必要があります。
体は免疫系だけが独立して動いているわけではなく、神経や臓器などはすべて連動しています。そして病気という直接的なメッセージが表面化する前には、ストレスを感じることによって感情に波が立っているはずなのです。この段階で自分にとって必要な行動を起こせば、病気になる人は減っていくでしょう。
【癒やしのために】
ガボールはトラウマを「未だに癒やされていない傷」と定義し、癒やしに大切なのは自分にとって「真実」かどうかを知ることだと言います。トラウマができる原因は、自分自身と切り離されることだからです。世界的な精神科医の意見が、スピリチュアルと同じなのは興味深いと思います。脳だけでなくハートで感じることで自分自身の「真実」を知ろうとする点も共通しています。
親や社会に望まれた「普通」やそれ以上の存在になろうとする必要はないのでしょう。まず何よりも自分らしくあることが大切です。精神的にも肉体的にも健康であるために、自分自身の感情や思考について考えるところから癒やしが始まるのかもしれません。