ジャギジャギジャギ・・・。真っ暗な部屋で古びたハサミのようなもので髪を切る女。女だと分かるのはテーブルの上に置かれたスマートフォンから漏れる薄明りが照らしているからだろう。血走った眼で髪を削ぎながら「私が一番じゃなきゃおかしいのよ…私があんな女に使われるのが間違って…」ボソボソとつぶやきながらときおり画面が髪の毛だらけのスマホに触れて文字を打ちこんでいる。
『占い館クリスタルはぼったくり』『店長の花江は客をひとりじめしてパワハラをしている』
匿名掲示板とおぼしきサイトに誹謗中傷を噛み込みながら女は高笑いをして眼を血走らせつぶやきながら髪を削ぎつづける。
その頃某県某所、とある事務所のチャイムが鳴る。はーい!ちょっと待ってくださいね。一人の女が出てきて荷物を受け取る。「ん、誰からだ?」差出人名には見覚えがあった。名古屋の占い館のオーナーだ。ということはもしかして…。わくわくしながら箱を開けると、やっぱりエビのおせんべい!女はおせんべいにかぶりつきながら、差出人の花江のことを思い出していた。占い館の経営は順調だと聞いているが、彼女は元気にしているかしら…。と、女の表情が曇る。
「たぶん元気じゃないな」
女は言事務所の電話を取って番号を押した。
「名古屋占い館クリスタルです」「花江さん?お久しぶりです、おせんべいありがとう!」「あ、先生!」
ひと通りの挨拶を終え、女は斬り込んだ。「花江さん元気?ってききたいけど元気じゃないでしょう?」
花江は電話越しに息を呑んだ。「先生に隠し事はできませんね…実は店をたたもうと思ってるんです」先生と呼ばれた女は訝しげに言う。「店をたたむ?占い師さんも増えたしお客さんもたくさん来てたじゃない?」花江は占い館は嘘のように順調だったと答えた。
「それで、いつから?店がおかしくなったのは」
花江は一瞬虚をつかれ、次の瞬間涙声になった。「…三か月くらい前からです」「本当に店を閉めるでいいの?まだ頑張りたいならそう言って」女がそう告げると、花江は言った。「先生、助けてほしいです…!私、このお店をやめたくない…」
聞けばこの三ヶ月、次々におかしなことが起きていたのだという。曰く占い師が交通事故に遭ったり、お子さんが体調を崩して働けなくなった、店の入っているビルのエレベーターがお客さんの乗降中に何度か故障した、占い館の周辺で人影を見たり何もないところから音が聞こえたり…。女に言わせればザ・心霊現象のオンパレードだ。