池袋が心霊スポットだという話は、都内近辺に住んでいる者どころか日本中で有名だ。初めて池袋に行ったその日から、自分も微妙な目に遭ってきた。初めてサンシャインに行った日、池袋駅の周辺で目に入ってきたのは大勢の人がざわつきながら電気店のテレビに見入っているところだった。友人と人波をかき分けてみたら、目に飛び込んできたのは超有名某アイドルが自殺したというニュース…。当時毎日のように金縛りに遭っていた身としては、どことなく不吉な予感がしたのを覚えている。
そしてサンシャインの建物に一歩踏み入ったときに異変が。昔のお化け屋敷でよくあったように床がぐにゃりと柔らかく沈んで、一瞬体のバランスが崩れた。その時はこのビルはそんな作りなんだなと思って納得していたが、10年以上も経って知り合いになった霊能力者曰く、そこにいる霊と波長が合ってしまったサインだという。そう言われてみれば、あの頃は毎日のように朝までエンドレス金縛りに遭って、青白い手首がこちらを指さしてたり、首だけの何かを見続けてたっけ…。
それから数年後、何の因果か池袋界隈の大学に通うことになった。飲み会もバイトもほとんど池袋、起きている時間のほとんどは池袋にいるという状況だ。そんな中、大学の女の子が半狂乱になっていたという話を聞いた。サンシャインで飛び降りがあり、道路に並んでいた車の上に肉とも液体とも言えないものが降っているのを目撃してしまったと…。昔のサンシャインは柵を乗り越えようと思ったらどうにか越えられるような作りだった。その後サンシャインの屋上にはさらに高い柵が設置され、簡単には飛び降りられないようになった。
飛び降りと言えば、パルコからの飛び降りでは男性が巻き添えを食って亡くなっている。パルコはすぐそばに江戸時代の辻斬り被害者のための慰霊碑があることで有名だ。大学時代パルコ前は毎日のように通っていたが、自分は一度しか中に入ったことがない。その時はエスカレーターで上がっていくにつれ、暑くもないのに汗が止まらなくなった。店は煌々とライトがついているのにやけに暗く、外に出るまで激しい動悸で息が苦しかった。このときもしばらく金縛りに悩まされたが、聞いていた音楽が突然お経になったくらいで実害は特になかった。
できれば池袋にはあまり関わりたくないと思っていたのに、気づいてみたら池袋の会社に世話になっている。そして、先日どうしてもサンシャインに行かなくてはならない用事ができて、何十年かぶりに足を踏み入れた。入ったところの床は相変わらずぐにゃりと湿ったスポンジみたいで、歩いていくにつれひどい耳鳴りとめまいで上下左右の感覚がなくなってしまった。今後も公園の慰霊碑あたりに行く用事ができないとも限らないが、乙女ロードのおかげか少しずつ明るくなっているように思う。