世界の都市伝説を巡るお話、略して『せとでん』。名古屋を走る電車とは全く関係ありませんのであしからず。
「ミスターフリッツ」はイギリスで実際に存在する”呪われた人形”として知られています。イギリスに住んでいるマイケル・ダイアモンドという男性の個人コレクションには、本物の処刑用の斧や干し首など奇妙な品々が展示されています。このコレクションルームの隅に毛布をかけられ鎖で縛られた展示棚があり、この中に呪われた人形「ミスターフリッツ」が収納されています。
「ミスターフリッツ」は腹話術人形で、頭部しか残されていません。木製の支柱になる部分に頭部がついており、腹話術をするときはこの支柱を持ちながら人形が生きているように左右に動かしたり目や口を動かしたりします。顔は表面の塗装が剥がれ、髪もなく、怒っているような悲しんでいるような不思議な表情をしています。
「ミスターフリッツ」は元々アメリカのアンティークモールで発見されました。アンティーク品を扱うディーラーが人形を見つけ、どういう人形なのかを聞いてみたところ、第二次世界大戦中のドイツ人捕虜施設と関係がある品だと聞かされました。ディーラーはこの人形を英国に連れて帰らないといけないと感じたと言います。
そのディーラーが自宅のコレクションルームに人形を展示した時、奇妙な出来事が起きたと言います。ショーケースのドアはしっかり閉めていたはずなのに朝になると大きく開いていたと。それが毎晩続いたそうです。
その後、更に不思議なことに普段は閉じている目が時々開いている事があったり、口の位置や様子が変わっていたりしたそうです。ディーラーは風や湿気、ネズミがやったのでは?と説明がつくような理由を探しましたがどれも当てはまりませんでした。恐ろしくなったディーラーはテープでドアを頑丈に閉じましたが、次の日の朝にはテープが剥がれドアが再び開いてしまっていました。彼はとうとう展示を諦め、庭の小屋にしまいこむ事にしました。庭では彼の子供たちが遊んだりもしましたが、小屋から笑い声が聞こえると言って近づかなくなってしまったそうです。
この「ミスターフリッツ」を無料で受け取ったマイケルさんは、自宅でも同じようにガラスケースに展示しました。すると、夜中のうちにケースの扉が開いてしまっていました。これを不審に思ったのかラッキーと思ったのかはわかりませんが、マイケルさんはカメラを仕掛け「ミスターフリッツ」の撮影を試みました。
よくある普通の都市伝説では何もなく終わるのですが、なんとこのカメラに驚くべき映像が録画されていたのです。フリッツの目がふわっと開き、ケースのドアがスッと開いたのです。その後も目と口が再び動きました。この動画はYouTubeでも見ることが出来るので気になった方は探してみてください。
この「ミスターフリッツ」に添えられていた小さな手書きのメモによると、この人形は腹話術人形で第二次世界大戦中のドイツで捕虜収容所の捕虜たちを楽しませるために使われていたと書かれていました。フリッツは持ち主のビリーと一緒に約18ヶ月の間、内輪のジョークや歌でみんなを楽しませたそうです。捕虜だけではなく看守たちでさえ面白いと思っていたそうです。しかし大戦が終わる数週間前、ビリーを含む数人のアメリカ人捕虜たちが十分な労働をしなかったと言う理由で処刑されてしまいました。
大戦が終わり収容所が解放されると捕虜仲間によってアメリカに連れ戻されて、ビリーの家族に引き渡されたと言います。その後、どうやってアンティークモールにたどり着いたのかはわかりませんが、そこでディーラーの目に留まり、現在マイケルさんの手元にあるそうです。
「ミスターフリッツ」の出自を知ると少し切なく、物悲しくなりますね。”呪われた人形”というのは世界各地に残されています。映画にもなったアナベルやロバート人形、日本では髪が伸びるというお菊人形など…。やっぱり人型をしているものには想いや願いが宿りやすいのでしょうか。人形を大事にする心は埴輪や土偶からもわかるように古代から続く人間の習性みたいなものなのかも知れませんね。