
世界の都市伝説:スローターハウス・キャニオン
世界の都市伝説を巡るお話、略して『せとでん』。名古屋を走る電車とは全く関係ありませんのであしからず。
今回は「スローターハウス・キャニオン」のお話をしたいと思います。1880年代ごろ、ゴールドラッシュ時代の話です。アメリカのアリゾナ州キングマン近郊にスローターハウス・キャニオン、またの名をルアナズキャニオンと呼ばれる場所があります。ゴールドラッシュのアツい波はアリゾナ州を襲い、多くの幸運を求める人々に歓喜だけではなく、悲劇や病気など死の波をももたらしました。
ここに一組の貧しい家族が木造の小屋で暮らしていました。旦那さんは金鉱を探す炭鉱夫をしていて、食料や生活費を稼ぐために時折遠くの鉱山に働きに出ていきます。奥さんはルアナさんと言い、子供たちと一緒に旦那さんの帰りを待ちながらつつましく暮らしていました。
ある時、旦那さんはいつもより長い期間の採掘の仕事に旅立っていったのですが、いくら待っても彼は帰ってきませんでした。消息もわからず、連絡手段もなく、ルアナは不安に包まれながらも子供たちに食べ物を分け与え、何とか生活を維持していこうと頑張りました。
しかし、日が経つにつれて家の食糧は底をつき、川も枯れ、岩盤に囲まれて狩猟や採取も困難な土地。飢餓と絶望の中、子供たちは徐々に衰弱していきます。
食料も希望もなくなってしまったある夜、精神的に追い詰められたルアナは狂気に走ります。白いウェディングドレスをまとい、叫びながら自らの手で子供たちを一人ずつナイフを使って殺害し、それぞれの小さな体をバラバラにしました。ウェディングドレスが返り血を浴びて真っ赤になりながらも、川へ遺体を運び捨てたと言われています。
ルアナは子供たちに負わせてしまった恐怖を思い、ヒステリックな悲しみに打ちひしがれました。彼女は一晩中雨の中で泣き叫び、翌朝衰弱死なのか自殺なのか定かではありませんが、その場で絶命してしまったといいます。遺体がバラバラにされていたことから、地元ではスローター(=虐殺・屠殺)ハウス・キャニオンと呼ばれるようになったそうです。
この惨劇以降、現地では
「夜になるとルアナのすすり泣きや叫び声が風に乗って聞こえてくる」
「ウェディングドレス姿の女性が渓谷周辺をさまよっているのを見た」
などと目撃談や体験談が寄せられるようになりました。
ルアナの魂は子供たちへの懺悔なのか旦那を待っているのか、現代でもさまよっているのかも知れませんね。
ゴールドラッシュに夢を見て移住を決めたのに、こんな結末になってしまったのは本当に残念です。しかし炭鉱の仕事は危険が多く、技術的にも成熟していなかった当時では事故が起きるのも日常茶飯事だったようです。ルアナのように悲しみに暮れることしか出来なかった家族も多く出てしまったのかも知れません。
今回は悲しい物語、スローターハウスキャニオンをご紹介させていただきました。ルアナだけが悪いとは思えないのが切ないですね。

