月刊ムーが作った「日本のオカルト脳」
1979年、日本に“禁断のバイブル”が降臨した。学研から創刊された月刊『ムー』の表紙には毎号ピラミッドやUFO、古代遺跡が輝き、「超古代文明の謎」「NASAが隠蔽した月面写真」「プラズマ兵器の真実」などがヘッドラインになっていた。ムーは今でも発行されていて、通巻500号を超える不死鳥だ。
ムーの功績—もしくは罪—は、日本人のオカルト世界観を一から生み出したことだ。アトランティス、レムリア、アカシックレコード、チャクラ、レイライン……こういった言葉を一般的な人々の頭に叩き込んだのは『ムー』だった。読者はオカルトの文脈で使える単語の数が飛躍的に増える。それがムーの魔力の一つだ。
ムーにはただの「トンデモ本」では終わらない絶妙なルールがあった。どんなに荒唐無稽な仮説でも論文風の体裁で堂々と展開し、図版を多用して矢印と注釈で因果関係を説明する。そして断定せず「〜と考えられる」「〜の可能性がある」で締める。信じろ!というわけでもなく馬鹿にするでもなく、「もしかしたら本当かも…?」という曖昧な領域に読者を置く。学術論文の体裁を取った催眠術のようなものだ。
80年代の学校では、クラスに『ムー』を持ち込む人間がよくいた。休み時間に「ナスカの地上絵は宇宙人へのメッセージなんだ!」と熱弁を振るう、あの光景は昭和オカルトの原風景だった。読者投稿欄も時代を先取りしていて、全国から届くUFO目撃談や前世の記憶、不可思議な体験の宝庫。インターネットのない時代に同じような誰かがいることを確認できる場所で、まさにオカルト民のためのSNS前駆体のような存在だったのかもしれない。
書店の棚で深い青と金色に光る表紙を見かけると、つい手に取りたくなってしまう。あなたはどうだろうか。