2人の王子の幽霊

霊能力者がゴールデンタイムにいた時代 宜保愛子とあの頃

 1980年代後半から1990年代、日本のテレビの番組内容は今では考えられないほど自由で、霊能力者たちの顔がしょっちゅう画面に映っていました。その中心にいたのが宜保愛子という女性です。

 宜保愛子の番組はゴールデンタイムに放送されていました。海外の古城や心霊スポットでロケを行い、彼女が見えたものを伝えるといった内容です。画面の中の彼女は虚空を見つめて言います。「お侍さんがいらっしゃいますね。兜をかぶった、立派なお侍さんですよ…」。視線の先には真っ暗な闇が広がり、カメラには彼女しか映っていません。私たちは何も見えない闇の中で何かを「見ている」人を見つめながら、味噌汁をすすっていました。よく考えたら謎の光景ですよね。 

 宜保愛子の持ち味は「怖がらせすぎない」ことでした。心霊スポットに行っても絶叫したり倒れたりといったオーバーアクションは一切ありません。穏やかで品の良いおばさまが霊と世間話をしているような雰囲気で、視聴者側にも安心感がありました。「怖いけどこの人がいれば大丈夫」みたいな感覚になるのは、ほかの霊能力者にはない独特の個性だったと思います。

 ただのスタジオトークではありません。イギリスの幽霊城、アメリカの有名心霊スポット、ヨーロッパの古い教会など、とんでもない予算の海外ロケがいくらでもできた景気のいい時代でした。 霊能力者を連れて世界中を巡るなんて、今のテレビでは絶対に通らない企画ですよね。でもあの頃の世間やテレビ局には、まだ余裕がありました。

 風向きが変わったのは1990年代後半、オウム真理教の一連の事件が起きてからです。テレビ局はオカルトや超常現象を扱うことに慎重になり、2000年代に入るといわゆるコンプライアンス意識が高まって、ゴールデンタイムから霊能力者の姿は消えていきました。宜保愛子自身は2003年に胃がんで亡くなっています。

 彼女が本物の霊能力者だったかどうか、今でもいろいろな説が残っています。それでも彼女は「ゴールデンタイムに霊能力者が出演していた」という、おそらく二度と戻ってこない時代の記録そのものです。科学で説明できないものに対して、あの頃のテレビは今よりずっと大きな席を用意していました。その席がなくなったのは進歩なのか、私たちは何かを失ったのか…その答えが出ることはないのかもしれません。ただ一つ言えるのは、 テーブルを囲みながら「お侍さん」を眺めていた不思議な家族の時間はもう戻ってこないだろうということです。

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