二つのブラックホールによる重力波

「波動が高い」とは何か スピリチュアルと物理学の周波数

 「波動が高い」「波動が低い」など、スピリチュアルの本やサイトでは「波動」「周波数」という言葉がよく使われています。多くの場合は人や場所、事象がどのような状態かを測る文脈で使われていますが、ではこの「波動」とは具体的に何を指しているのでしょうか。

物理学の「波動」

 物理学では「波動」という言葉の使い方ははっきりと定義されています。空間や物質に伝わるエネルギーのことで、音波、電磁波、水面の波などがそれです。電磁波には周波数があり、低い方からラジオ波、マイクロ波、赤外線、可視光、紫外線、X線、ガンマ線と呼ばれます。私たち人間の身体も微弱な電力を帯びているので、周波数の高い低いがあるということになりますね。

 波動・周波数には高低があるとはいえ、これは単にその性質を表しているだけで善悪や質の良し悪しとは関係ありません。ガンマ線は可視光より高い周波数を持ちますが、ガンマ線が優れているわけではなく、人体にとってはむしろ有害だったりします。

スピリチュアルの「波動」

 スピリチュアルの「波動」は物理的な波動とは異なり、良し悪しや善悪を含んだ概念として使われる場合があります。物理学用語を使っているため、科学的な裏付けがあるようなイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。

 「すべてのものは振動していて、高い周波数の人は高次の意識にアクセスできる」といった説明をするとき、量子力学が根拠のように使われることがあります。「量子レベルではすべてが振動」「観測が現実を変える」などの説明を聞いたことがあるかもしれません。

 ただ、量子力学が扱っているのは原子や素粒子レベルの現象で、日常的な人間の意識や感情にそのまま適用できるかどうかはまだわかっていません。量子力学の観測者効果は「実験装置が測定対象に物理的な影響を与える」という話であって、今のところ「人間が思考で現実を変える」という話を裏付けるものではありません。

スピリチュアルな「波動」の歴史

 スピリチュアルで使われる「波動」という考え方は、19世紀後半の神智学から始まりました。ヘレナ・ブラヴァツキーが物質世界を取り巻くエーテルとその振動について語り、その後チャールズ・ウェブスター・レッドビーターがチャクラとオーラのエネルギーを振動として視覚化しました。

 そして、ニューエイジムーブメントの中で量子力学を基にした解釈と神智学の概念が混ざっていきいます。やがて「すべてはエネルギーで周波数を持つ」「高い周波数=高い意識」という考え方が定着していきました。

 ここにはデヴィッド・R・ホーキンズの「意識のマップ」という思想の影響がありました。『パワーか、フォースか』という書籍では人間の感情と意識の状態を1~1000の数値で序列化しています。恥(20)、恐れ(100)、怒り(150)、勇気(200)、愛(500)、悟り(700~1000)などの数値は「キネシオロジー(筋力テスト)」を使って出したものでした。

波動に関する問題とは

 波動の高低が人間の価値に直結するという考え方には、いくつかの問題があります。

 まず、悲しみや怒りを感じている人が「波動が低い」とされることの暴力性です。困難な状況にある人に対して「波動が低いから自分自身がその状態を引き寄せた」と言ってしまうのは、その人を二重に傷つけることになるのではないでしょうか。

 また根拠が曖昧もしくは検証が不可能な物差しで格付けするような仕組みは、そのコミュニティ内で権威を持つ人間が「自分は波動が高く、それ以外の人は自分より波動が低い」と定義するような上下関係を生み出します。

 そして物理学の用語を使うという問題です。「波動は科学的に証明されている」と言われたら、物理学の知識がない人にとっては反論しづらくなってしまいます。けれど上に挙げたように、スピリチュアルの「波動」と物理的な「波動」はまったく別のものです。

主観と客観を切り分ける

 人や場所に対して何かを感じることそのものを否定する必要はありません。穏やかな気持ちになれる場所と不気味で落ち着かない場所がある、一緒にいると元気になる人と疲れる人がいるなどは多くの人が感じたことがあるはずです。

 問題はその感覚に波動や周波数、Hzといった物理学の言葉を乗せることで、主観的な体験を客観的な事実に見せかけてしまうことではないでしょうか。「ここは波動が高い」ではなく「ここは居心地がいい」なら主観的な言葉になっています。自分が感じたことをそのまま言葉にすること。それだけで伝わることはたくさんあるのではないでしょうか。

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