ファイストスの円盤

ファイストスの円盤とは?たった1枚の粘土板が解読できない理由

 未解読文字では、資料自体は多いのに手掛かりがなくて読めないものが多い。だがファイストスの円盤は世界にたった1枚、比較対象がひとつもないから読めない。直径約16cm、厚さ約2cmの小さな粘土の円盤、両面に螺旋状に刻まれた謎の記号。それがすべてだ。これだけで何かを解読しろというのは、知らない外国語の本を1ページだけ渡されて「翻訳しろ」と言われるようなものだろう。

ファイストスの円盤の発見

 ファイストスの円盤は、1908年クレタ島南部のファイストス宮殿遺跡で発見された。発掘を指揮していたのはイタリア人考古学者ルイジ・ペルニエで、宮殿の中にある小部屋から粘土板と円盤を掘り出した。現在はギリシャのイラクリオン考古学博物館に所蔵され、クレタ島観光の目玉のひとつになっている。

 ファイストス円盤が作られた年代には議論がある。出土した地層や同時に見つかった陶器の形や模様から、紀元前1700年頃の中期ミノア文明のものだという説が主流だが、後の時代に埋められた可能性も指摘されている。

円盤の特徴 世界最古の活字印刷?

 ファイストスの円盤には、他では見られない特徴がいくつかある。

スタンプ方式
記号は手書きではなく、スタンプ(活字)を粘土に押しているという。これは極めて珍しく、事実だとしたら「活字を使った印刷物」の世界最古の例ということになる。グーテンベルクの活版印刷より3000年以上前だ。

ただし他にスタンプ方式の出土品が見つかっていないため、これが当時の一般的な技術だったのか、この円盤だけの特殊な製法だったのかは不明。

螺旋状の配列
文字は円盤の外周から中心に向かう渦巻き状の配置。両面に記号があり、A面に31、B面に30の計61グループの記号列がある。グループは縦線で区切られ、それぞれが単語に相当すると考えられる。

記号の種類
使われている記号は45種類。人間の頭、歩く人、鳥、魚、船、盾、植物など、具象的な図像が多い。
線文字Aや線文字Bとは字形がまったく異なり、ミノア文明圏の他の文字体系との関連は確認されていない。

なぜ解読できないのか

 その答えは単純で、比較対象がないからだ。文字を解読するためには、同じ体系で書かれた複数のテキストを比較しなければならない。いくつもの文脈に現れる単語を見つけ、意味や文法を推測していくという方法だ。

 ところがファイストスの円盤に関しては、テキストは1点のみで総文字数は約241字しかない。これだけで統計的な分析を行うのは不可能に近い。仮に45種類の記号すべてに音価を当てはめたとしても、それが正しいかどうか検証できないのだ。

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