線文字Aとは?解読された線文字Bとの違い、ミノア文明最後の謎
古代クレタ島には二つの文字があった。線文字Bと線文字Aという名前で見た目も似ている。だがこの二つには決定的な違いがあり、Bは解読されたがAには未だに手掛かりがない。なぜ片方だけが解読できない謎のままなのか-そこには「文字を解く」とは何かという本質的な問題が隠れている。
ミノア文明の文字
線文字Aは紀元前1800年頃から紀元前1450年頃までクレタ島中心に使われていた。この時代のクレタ島にはヨーロッパ最古の高度な文明、ミノア文明が栄えていた。クノッソス宮殿に代表される壮大な建築、精緻なフレスコ画、広域に渡る海上交易。線文字Aは、この文明の記録手段だった。
イギリスの考古学者アーサー・エヴァンズがこの文字を発見したのは1900年。クノッソス宮殿の発掘中に大量の粘土板を発見したエヴァンズは、そこに刻まれた文字を「線文字(Linear Script)」と名付けた。当初は一つの文字体系と考えられていたが、のちに2種類に分類されて古い方がA、新しい方がBと呼ばれるようになった。
線文字Aはクレタ島各地のほか、エーゲ海の島々、さらにはギリシャ本土やトルコ沿岸部でも発見されている。これはミノア文明の交易範囲の広さを示すものだ。現在までに発見された線文字Aの資料は約1400点。粘土板、封泥、壺に刻まれた銘文などがあるが、ほとんどは断片的なものだ。
線文字Bとの関係 似ているのになぜ読めない?
線文字AとBは字形の約70%が共通していて、明らかにAをベースにしてBが作られたと考えられる。
1952年、イギリスの建築家マイケル・ヴェントリスが線文字Bを解読した。彼は線文字Bが古代ギリシャ語の一種(ミケーネ・ギリシャ語)を記録していることを突き止めたのだ。この発見は世界を驚かせた。線文字Bが使われていた紀元前1400〜1200年頃のクレタ島にギリシャ語の話者がいたということだからだ。これはミノア文明が衰退し、ギリシャ本土からミケーネ人が侵入した証拠と解釈された。
では線文字Aも同じ方法で解読できるのか? という点に問題がある。線文字BはAの字形を借用しているが、記録された言語がまったく違うのだ。Bはギリシャ語、Aはミノア語と呼ばれる未知の言語だ。
文字を解読するには、各記号がどんな音を表すか(音価)、その音で綴られた言語が何語かの2つを明らかにする必要がある。線文字Bは音価がわかった時点でギリシャ語だと判明した。既知の言語だったからこそ、単語の意味も文法も理解できた。
線文字Aの字形はBと似ているため音価はある程度推定できる。だが音は取れても意味がわからない。ミノア語そのものがどの言語系統とも一致しないからだ。
系統不明の言語 ミノア語
ミノア語は、現時点で知られているどの言語とも関連づけられていない。「言語系統」という共通の祖先言語から分かれた言語のグループがある。例えば英語・ドイツ語・フランス語・ロシア語・ヒンディー語などは同じ「インド・ヨーロッパ語族」だ。ところがミノア語はどの語族にも属さない「孤立言語」か、あるいは完全に消滅した未知の語族に属するかのどちらかと考えられている。
これが線文字A解読の最大の障壁となっている。例え全記号の音価が正しく推定できても、その言語の文法がわからなければ文章は理解できない。辞書なしで外国語の本を渡されたようなものだ。発音はできても、意味がわからない。