平成のホーンテッドマンション 富加町ポルターガイスト事件
2000年秋、岐阜県の小さな町が日本中を震撼させた。新聞、テレビ、週刊誌がこぞって報じた「幽霊団地事件」…あなたはこの騒動を覚えているだろうか。
岐阜県富加町—人口わずか6000人ほどの静かな町に、4億円をかけて建設された4階建ての町営住宅があった。周囲には田んぼが広がるのどかな場所だ。住宅は24世帯が入居できる、ごく普通の白い外壁のマンション…のはずだった。
異変は入居直後から始まっていた。ギシッ、ギシッと壁がきしむ。何かが天井を走る音がする。ガラス瓶が転がるような音、ノコギリで切るような音、トンカチで叩くような音…。住人たちは薄気味悪く思いながらも、誰かに話せばバカにされると口をつぐんでいた。
だが2000年のお盆を過ぎた頃、事態は急変する。
4階に住む主婦Mさんの部屋では、シャワーや水道から勝手に水が流れ出した。誰も触っていないテレビのチャンネルが勝手に変わる。そして食器棚が突然開き、水平に飛び出した皿や茶碗が2メートル先の床に叩きつけられた。割れた茶碗の一部は、まるで機械で切ったかのように正確な長方形になっていたという。ポルターガイストだとMさんたちは恐怖した。
同じ4階の別の部屋でも奇妙なことが起きた。深夜2時、洗面所でドライヤーが突然動き出したのだ。驚いて確認しに行くと、ドライヤーはコンセントから外れているのに熱風を吹き出し続けていたという。
この二部屋だけで話は終わらず、住人たちからは幽霊の目撃証言が相次いだ。階段、非常口、駐輪場…「女性の霊が立っていた」「歩いているのを見た」。自治会長は何かあったときのために木刀を準備するようになった。…相手が本物の幽霊なら木刀が効くかどうかは定かではないが。
住人たちは富加町に助けを求めた。だが役場は「政教分離の原則に反するため、自治体がお祓いを行うことはできない」と回答。住人たちは自費で祈祷師を呼ぶことになる。地元の中日新聞がこの騒動を報じ、事態は一気に全国に知られるようになった。テレビ朝日の人気番組「ニュースステーション」が現地から生中継。週刊誌各社が取材に殺到し、全国から霊能者や自称霊能者が次々と押し寄せた。
霊能力者たちの「霊視」にはありとあらゆる「原因」があった。「数百体の霊が見える」「ここは数百年前の処刑場だ」「近くの森の氏神様の祠から出ている”死霊の道”を塞いで建物を建てたのが原因」「織田信長の息子の祟り」「コレラで死んだ何千頭もの牛豚の霊」—中には最初から100万円単位の金額を要求する、ただの金銭目的の輩もいた。全戸のドアに呪文が書かれた御札が勝手に貼られたこともあったという。
ある祈祷師は「約30年前に首を吊って亡くなった女性の霊がいる」と霊視した。調べてみたところ、オイルショックの時期、近隣で小学生の子を持つ母親が縊死していたことが判明。住人たちは彼女のために慰霊碑を建てたが、今度は別の霊能者が「悪霊が集まる」として破壊するように言った。ホラーというより、もはやドタバタ劇だ。
騒動は2000年末に沈静化、2002年頃には完全に収束したとされている。公式には「建付けの問題」ということになった—が、本当にそれだけだったのだろうか。
2016年になって、怪談ライターの吉田悠軌が現地を再訪した。当時を知る住民はもうほとんどおらず、当時の自治会長もすでに亡くなっていた。ようやく出会った当時の住民は、「正直、迷惑でしたよ」「ほとんどの住人は心霊現象なんて全く覚えがなかったんですから。一部の人が神経質に騒いでいただけです」と語った。
24世帯中15世帯が怪現象を報告したとされるこの事件だが、実際に騒いでいたのは「一部の住人」だけだったようだ。吉田は当時の雑誌記事を調べ、霊関係のコメントを集中的にしていたのは特定の住民だったと指摘している。超心理学者の小久保秀之は磁力計や赤外線カメラによる物理調査を行い、この騒動は「(1)心理要因 (2)物理要因 (3)超心理要因の3要素が絡んで起きた複合的な現象」だと結論づけた。日本音響研究所の鈴木松美は、水道管の圧力変化で起きる「ウォーターハンマー現象」ではないかと言った。
町営住宅は今でも同じ場所に建っている。怪現象は起きておらず、富加町のホームページでは入居者募集の案内も出ている。…もし興味があるなら、住んでみるのも一興かもしれない。
日本のメディアが大々的に心霊現象を報じた、おそらく最後の事件が富加町ポルターガイスト事件だ。この事件をモデルにしたホラー映画『N号棟』も公開された。あの団地で本当は何が起きていたのか。幽霊の仕業か、集団ヒステリーか、それとも…。真相は今でも藪の中、その真実を知る者はもうほとんどいない。