みんながスプーンを曲げようとしていた頃 超能力者ユリ・ゲラー
片手に持ったスプーンを反対の手でこすって曲げる。何だったらねじ切ったりもする。スプーンを曲げたから何だって話なのに、昭和の日本はスプーン曲げに夢中になった。1974年2月、テレビに登場したユリ・ゲラー。イスラエルの超能力者を名乗るこの男は、スプーン曲げ、壊れた時計を動かす、離れた相手にテレパシーを伝える―そんな謎めいたことを次々とやって見せた。
ユリ・ゲラーが出演した「木曜スペシャル」は日本中の話題で、視聴率は26.1%もあったらしい。ユリ・ゲラーがテレパシー?念力?をテレビの中から送ったときは、「スプーンが曲がった!」という同級生も何人かいた。テレビでは壊れた時計が動き出したとか、中には「子供の風邪が治った」なんて人までいた。「テレパシーの力です」と言われると「そんなもんかな?」と思ってしまうから不思議だ。テレビの力、時代の空気、人間の想像力がごった煮みたいになったのが昭和オカルトブームだったんだと思う。そういう自分も必死にスプーンを握りしめてたクチだ。
もちろん懐疑論者もいた。トリックだ、催眠だ、いや手品だ。実際てこの原理を使えば力を入れなくてもスプーンは曲がるが、あの頃の自分たちにとっては「真実」より怪しげな世界のほうがよっぽど魅力的に見えた。実用性なんかどうでもよくて、超能力はロマンでしかなかった。そんな人間が多かったのかユリ・ゲラーはマスコミに登場し続け、日本の超能力ブーム・オカルトブームはどんどん大きくなっていった。コンプライアンス云々の今のテレビなんかより全然面白かったもんなあ。
そのユリ・ゲラーは現在どうしているのかを調べてみたら、2015年にイスラエルに戻り、テルアビブでミュージアムを建設していた。入口には長さ16メートル、重さ11トンもの巨大なスプーンが鎮座している。もちろんスプーンは曲がっていた。館内にはジョン・レノンやマイケル・ジャクソンなど著名人ゆかりのコレクションが展示され、2000本以上の曲がったスプーンで飾られたキャデラックまで飾ってあるという。
77歳になったゲラー自らがツアーガイドを務め、心臓病の子供たちのための基金に博物館の収益を寄付している。ブームが去ると共に日本の表舞台から消えていった「超能力者」は、心優しき男だったのだ。2021年には久々にスプーン曲げ動画を公開。イスラエルではテレビ番組「The Next Uri Geller」が放映され、若い世代の超能力者を発掘している。ちなみにこの番組は高視聴率らしいが、超能力を研究している/いた国はけっこうあったような…
ユリ・ゲラーという「超能力者」がどうやってその力を発揮していたのか、たぶん説明されてもわからないだろう。でもあの熱狂は本物だったし、超能力は身近に存在するような気がしていた。イスラエルの人たちが、そしてパレスチナの人たちが安心してユリ・ゲラーの博物館に行ける日が一日も早く訪れるよう願っている。