『メキシコの神々』ルイス・スペンス 序章
※著作権の切れた書籍を翻訳・意訳して掲載しています。『The gods of Mexico』Lewis Spence 翻訳した文章©StellaCircus
序文
本書は古代メキシコの宗教に特化したもので、歴史や考古学には必要な範囲でのみ触れる。メキシコとは、北アメリカのうち北回帰線からテワンテペク地峡までの地域を指し、ユカタン半島のマヤやグアテマラのキチェの宗教には基本的に踏み込まない。
かつては中央アメリカ全域の文明を一括りに考える傾向があったが、現在ではナワ(アステカやチチメカ)とマヤの文化は明確に異なることが判明している。より古いのはマヤ文明の方だが、メキシコが征服する以前の100年間にナワの影響を受けていたため、両者を混同しないよう注意しなければならない。本書は特にメキシコの神々とその儀礼を重点的に扱い、基本的な信仰の解明を目指す。
本書のタイトルを『メキシコの神々』としたのは、主にアナワク(中央メキシコ)の神々に焦点を当てているからで、儀礼や宗教建築の詳細には立ち入らない。ただし、各神の祭りについては詳しく記載している。洗礼や埋葬などの儀礼には触れないが、これらは将来的に別の研究として扱う予定だ。
メキシコの宗教についての研究はまだ十分ではなく、記録も断片的で曖昧だという指摘は避けられない。だが20年以上にわたる研究を経て、私はその一部を再構築しようと試みた。本書が他の研究者の関心を引き、より詳細な研究を促すよう願っている。また、後進の研究者が無駄な労力を避け、私の到達した地点から研究を進められるようにとの思いもある。
メキシコ考古学の現状
イギリスではメキシコの考古学に対する関心は薄く、ギリシャやエジプトに向けるほどには注目を集めていない。だがアメリカの研究者たちは中央アメリカの遺跡調査に取り組んでおり、ドイツやフランスの学者たちも貢献している。一方イギリスにはこの分野の専門家が少なく、研究の遅れが目立つ。
メキシコの宗教はイギリスの民俗学研究にとっても重要だ。イギリスは民俗学の分野で世界的に優れた成果を上げてきたが、メキシコ神話に関する情報は間接的な引用が多く、信頼性の低い資料が用いられることが多い。
研究の難しさ
メキシコの宗教を研究するには多くの障壁がある。現地の言語は習得が難しいし、神々を描いた絵画(コデックス)は極めて象徴的で解読が困難だ。さらに言うとメキシコの聖職者の知識水準は高く、現存する資料だけでは神話体系の全容を理解しにくい。
また、スペイン植民地時代の文献は情報が矛盾していたり信頼性が低かったりするため、慎重に扱う必要がある。本にはなっていない手書き資料の調査も不可欠だが、入手することは難しい。
研究の先駆者たち
現代で最も優れたメキシコ神話の研究者はベルリンのエドゥアルド・ゼラー教授だろう。彼はリュバ公爵の支援を受けてコデックスの詳細な研究を行い、多くの図像の意味を解明した。ただ、専門的で難解な記述は一般読者には理解しづらい。
アメリカの研究者は主に遺跡や記念碑の調査に重点を置いている。フランスのブシャは『アメリカ考古学』という優れた入門書を執筆したが、言語学的な面では不足がある。ドイツやベルギーの研究者も貴重な論文を発表しているが、イギリスの研究は遅れをとっている。
本書の方法論
本書では、メキシコの神々の研究方法を序章で明確にし、特に神々の本質に焦点を当てた。カレンダーと占い書(トナルアマトル)の解説は巻末の付録にまとめ、本文の流れを妨げないようにした。コデックスのページ番号はゼラー版に従い、キングズボロー版は必要に応じて併記している。
巻末の文献リストは、研究者の便宜を図るために充実させた。私の研究には誤りもあるかもしれないが、指摘してくれる研究者の協力を歓迎する。
図版について
本書の図版は、主にメキシコのコデックスや石像、陶器の神々の図像から採用している。すべての図像を掲載することはできないが、リュバ公爵による彩色図版は各大学図書館などで閲覧できる。本書では特に入手が難しい神々の図像を選んで掲載した。
謝辞
最後に、本書の執筆にあたり、娘が大英博物館やエディンバラのアドヴォケイツ図書館で貴重な書籍の筆写を行い、遊びの時間を削ってまで協力してくれたことに深く感謝する。
ルイス・スペンス