トラロック

『メキシコの神々』第一章・序論 1-5 要素の神格化

※著作権の切れた書籍を翻訳・意訳して掲載しています。『The gods of Mexico』Lewis Spence 翻訳した文章©StellaCircus

成長の要素の神格化

 古代人の心において、成長を司る要素は四つ ─ 大地、穀物、雨、そして太陽の熱だ。これらがどれも神として崇められ、人間の姿の神として描かれるようになったのは、決して不思議なことではない。

 太陽は最初から恵みの象徴として崇められていたわけではないらしい。かつては暦の指標として重視されておらず、祝祭日や暦の周期は月に基づいて組み立てられていた。だが雨が降らずに太陽が照り続ければ、飢饉をもたらす災厄となった。そんな地域での太陽はむしろ中立的な存在、あるいは慎重に見つめられる力として捉えられていたのではないか。

 このように見ると、初期のメキシコ世界における農耕的宇宙観の中心に位置していたのは、太陽ではなく、大地、穀物、そして雨だったのだろう。そしてその三位一体の神性は、メキシコ神話の根本に深く息づいている。

 大地はシパクトリ (cipactli) と呼ばれる怪物の姿をとって現れる。その姿は時にワニ、時に剣魚、あるいはドラゴンとされてきたが、最も本質的なのは「大地の竜」という象徴的イメージだろう。これは、多くの神話に共通する「豊穣と破壊を併せ持つ大地そのもの」の化身だ。シパクトリは運命の書トナラマトル (tonalamatl) の冒頭を飾る象徴で、創造神や母なる大地と深く関わっている。

 シパクトリ=大地の母神という発想は、他文化にも見られる「土=女神」という根源的な感覚と重なり合う。シャラキア (xalaquia) — 砂をまといし者 — と呼ばれる儀式では若き処女が生け贄となり、その血が疲れ果てた大地の女神に再び命を吹き込むとされた。セレルの言葉を借りれば、彼女は「すべてを養い、すべてを生み出す者」であり、人々の想像の中で、大地そのものと渾然一体となっていたのだ。

 この「大地の竜」としての女神の観念を最も雄弁に物語るのが、メキシコ市の国立博物館に収蔵されているコアトリクエ (coatlicue) の巨大な石像だ。この像はウィツィロポチトリ神殿の入り口を飾っていたもので、鱗、爪、牙が彫り込まれた体は複合的な怪物…「地そのものの混沌とした力」の顕現だ。テワカンから出土した別の像もまた、同じように激しい形相をたたえ、母なるものの凶暴性と創造性の両義性を示している。

 「竜=母なる大地」という図式は、マヤのコパンやパレンケの神殿に残る浮き彫りにもよく似ていて、メキシコ神話における観念の融合が、単なる偶然ではないことを示している。

 穀物の神格化は、世界中で見られる現象だ。特に穀物が主食だったメキシコで穀物と神が結びつくのはごく自然なことだった。場所によって呼び名が違っても信仰の中身に大きな差はなく、神々の融合もスムーズに進んでいった。

 一方、雨についてはもう少し複雑で、興味深い流れがある。単に「雨を降らせる神」ではなく、雨という現象そのものが、生命の根源として神聖視されていったのだ。トラロック (Tlaloc) はまさにその代表で、雨や湿気を象徴する神として知られる。トラロックは「命を与える者」「潤し育む者」であり、緑に満ちた高地トラロカン (tlalocan) に住み、干上がったアナワクの谷に恵みの雨をもたらす。

 トラロックの住む宮には四つの水瓶が置かれていて、それぞれが空の四方に対応する異なる種類の雨を蓄えている。これらは、彼の子どもたちであるトラロケ (tlaloquê) によって配分されていた。

 トラロックの造形自体が、まさに雨という現象を象徴している。顔は二匹の蛇の交差から成り、色は青や黒、そして雷雲のようなくすんだ黄。衣にはウリ (ulli) と呼ばれる天然ゴムのしぶきが飛び、雨粒を表すしずくとして描かれる。その衣は「アナチェチェリ (anachxechilli)」、つまり「しずくの衣」と呼ばれ、緑の宝石が雨のきらめきを表現している。

 トラロックほど雨という象徴をまとった神は少なく、インドのインドラ神と並ぶ存在と言えるだろう。しかし彼が蛇や竜のような姿で描かれることから、もとは山間に棲まう「水を司る竜」として、あるいは「打ち勝たねば雨を与えぬ怪物」として信じられていた時代があったのではないか──そんな想像も、決して的外れではないように思われる。

そして、彼が蛇や竜のように描かれることから考えると、もっと古い時代には「山に棲む水の竜」、あるいは「討たれなければ水を解き放たない怪物」として信じられていたのかもしれない…そんな想像も決して的外れではないように思われる。

『メキシコの神々』ルイス・スペンス 序章
『メキシコの神々』第一章・序論 1-1
『メキシコの神々』第一章・序論 1-2 メキシコ宗教の古代性
『メキシコの神々』第一章・序論 1-3 メキシコ宗教の起源 ― 異文化融合と信仰体系の形成
『メキシコの神々』第一章・序論 1-4 メキシコにおける初期宗教の痕跡

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