ワイドショーで幽霊とランチ 「あなたの知らない世界」
昭和の小学生の夏休み、昼食の定番はそうめんか冷やし中華。平和な夏の午後に割り込んでくるのが、今では伝説となった「あなたの知らない世界」だ。真っ昼間のワイドショーで再現と銘打った心霊ドラマ、母親と麺をすする間にブラウン管には幽霊。今のコンプラ時代には考えられない昭和オカルトの時代だ。
学校で一番話題になったのは、トイレから青白い手が出てきたシーンだったと思う。子供たちはトイレが怖くなって、今でも軽くトラウマになっている知り合いもいる。当時は便座に座ったら、手が出てこないかどうかビクビクしながら下を見ていた。母親に笑われて憤慨してたけど、そりゃあの細いパイプから手は出てこないよなあ。
「あなたの知らない世界」が侮れないのは、お化け屋敷みたいないきなりの仕掛けがあったことだ。部屋にいる女性が後ろを振り向くと、突然天井から幽霊が逆さ吊りで現れたりする。その時も夜電気を消したあと、天井が気になって眠れなくなった。勉強机に向かってても後ろが気になってしょうがない。誰もいない、何もないのを確かめずにはいられなくなった友達は多かった。
番組のネタも強烈だったし、なにせ「再現」、ということは実体験(ということになっていた)。今でも幽霊トンネルとして名高い小坪トンネルの怪異を話したのはキャシー中島だった。車のフロントガラスに手形が浮かんだ話だったけど、高校生の頃には「知り合いが小坪トンネルで失踪した」なんて尾ひれをつけて話すやつもいたなあ…。幽霊が見えるのがカッコいいみたいな風潮だった気がする。車で渋谷を走っていたらいつの間にか山奥にいて、石段を登ったら赤い鳥居が…なんて話もあった。再現フィルムは今思えばかなりチープなのに、ブラウン管のざらついた画質では逆にリアルに見えた。
「あなたの知らない世界」では、特にオチはつかない。小坪トンネルのフロントガラスに浮かんだ手形も、扉の隙間から覗く白い顔も、何だったのかわからないままだ。新倉イワオが「これは霊の仕業かもしれません」と言って終わり。不条理だからよけい恐怖が煽られて、もしかしたら自分もそんな幽霊を見るんじゃないかと想像してしまうようなコーナーだった。
平和な昭和の食卓を恐怖に染めた「あなたの知らない世界」。冷たい麺とブラウン管の中の幽霊が胃袋と背筋を同時に冷やした、今は遠い昭和の夏の思い出だ。