閉ざされた鏡
娘は堰を切ったように話し始めました。さらに話は続きます。「夜でも用務員さんが出入りするところは空いてるの知ってたからそこから入ったのね」。娘とクラスの男の子は真っ暗な学校の階段をのぼり例のおばけ階段にたどり着きました。懐中電灯で鏡をてらしてもうつるのは自分たち。やっぱりおばけなんていないんだよー!なーんだがっかり。
ウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
何?チャイム?え?子供たちは突然の音にとまどい音の出所を探ります。
ウ――――――
救急車かな?鳴り響く音に気を取られていると鏡の中から光が見えました。火だよ!燃えてる!
鏡の向こうは闇をこうこうと照らし不気味な色に照らし出されていました。その瞬間、鏡に女性が映ったのです。ワ―!おばけだ、そう思ったのですが女性は鏡をしきりに叩いて何か言っています。着物のような洋服のような服装をした若い女性は子供たちに向けて叫び続けています。「に・げ・て」子供たちが言葉を理解しようとした瞬間。コラー!用務員さんの懐中電灯が子供たちを照らしました。逃げろ!その後、身元はバレバレで後日の呼び出しとあいまったわけです。
「昔に言っていたおばけの話だね。でもどうして急に話してくれたの?」
私いま教育実習で小学校行ってるの知ってるよね。うなずくと、「これ見て」。娘の手には第三小学校のあゆみと書かれた小冊子。学校の沿革が書かれています。「見て」。歴代の校長のなかにひときわ目鼻立ちのスッキリとした聡明そうな若い女性がいます。
「この人、鏡のなかにいたの」
あたし思い出したの、校長先生の部屋にこの女の人が写真でかざってたの。それで全部思い出したの。娘は涙をこぼしながら続けます。この先生ね、空襲で疎開してきた子供たちを逃がすときに犠牲になったの…。だから逃げろって…。「立派な先生だね。」うん、先生のことおばけって言ってごめんなさい。
私は娘の顔を見つめながら、時を超えた思いに親として頭がさがる思いでした。
(ひもろぎより転載)