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ムナイ・キ──歪められた形を見つめ直す (後) それは祈りか、商品か

前編 ムナイ・キ──歪められた形を見つめ直す (前)  アンデスの秘儀とは?

 今現在、日本でムナイ・キと呼ばれているものには、少なくとも三つのレイヤーが重なっている。そのレイヤーを整理し、ムナイ・キについてさらに考えてみたい。今ムナイ・キを伝えている人たちを攻撃したいわけではない。ただ、もし日本に伝えられた形でだけ理解しているならば、その成り立ちや背景を知ってほしいと願っている。

アルベルト・ヴィロルド博士のムナイ・キ

 この名称を生み出したのがアルベルトである以上、「本物の」ムナイ・キだと言えるだろう。これは「コースを受ければ誰でも伝授を許可される技術」ではなく、日々の実践を繰り返しながら、儀式で呼び出されたスピリットたちとの関係を築いていくものだ。

 それぞれの儀式には、光のエネルギーフィールドに働きかける「種」を植えるという意図がある。その種を育むことで肉体に蓄積された情報が書き換えられ、老いや癒し、死へのプロセスすら変容する可能性があるとされる。ある儀式では自然界の五大元素とつながる保護の帯が構成され、重く否定的なエネルギーを分解する。この帯も、もちろん自分で育てる必要がある。スピリット・アニマルとして知られる4つのアーキタイプの儀式も行われ、それ以降も意識的な結びつきを強めていくことになる。やがて人格や感覚の層が再編成され、深いレベルでの変容が促されていく。

 一連の儀式は、祖先、自然、そして時間との関係性を再構築するよう意図されている。ここでのムナイ・キの本質は癒やしではなく、スピリットとの関係を通じて”記憶されていた自己”を再び目覚めさせることにある。「新しい何かになる」のではなく、「本質としての自分」に還ろうとするプロセスであり、切り離されてしまった自然や死のリズムと再接続するための霊的回路を開こうというものだ。

日本でセミナーになった「ムナイ・キ」

 次に、日本でSという女性を通じて伝えられた「ムナイ・キ」。2013年のインタビュー記事では「インカの長老と暮らしていた人物からムナイ・キを伝授された」「シベリアからライカと呼ばれる人々が世界中に散って行った」という発言があり、一定の信頼性と霊的な正統性があると認識された。

 彼女のセミナーは、英語と日本語のテキストを使って9つの儀式を段階的に受ける形式となっていた。特定の条件を満たした参加者=9つの儀式すべてを受けた参加者は他者に儀式を伝えられるとされた。アルベルトのムナイ・キが「種を育てるもの」なのに対し、そういった条件はなくただセミナーに参加すれば儀式が行えるという形式に変化している。セミナーの紹介でも「短期間で伝えられるようになる」とされていた。

 ここからしばし余談。現在彼女のサイトでムナイ・キのページを開くと、ケルトのシャーマニズムと組み合わせた形での説明が出てくる。それによる儀式の由来が「約3万年前にベーリング海峡を渡ったシベリアのメディスンマンとウーマンによってヒンドゥー教徒の谷からもたらされた」とあって、正直に書くと頭が痛くなってしまった。どこからツッコミを入れていいのか…。

 「Indus Valley、インダス文明の谷」なら、ああインカだから混同したのねと思うだけだが、「the Hindus Valley、ヒンドゥー教徒の谷」って書いてあるのです…。そして人類がベーリング海峡を渡ってアメリカ大陸に移動した事実(確実なのは1万5千年前、3万年前説をとる学者もいるがまだ氷期)はあっても、インダス文明は最古でも紀元前3千年頃までしか遡れないので完全に時代錯誤。ついでに言うとヒンドゥー教の元になったヴェーダ文献が書かれたのは紀元前1500年頃。二万数千年分の時空が歪んじゃってるよ!という…。時間的なおかしさだけではなく、インド→シベリア→世界中というのもおかしい。ムナイ・キなのに南米どこ行った。

 つまり「インダス文明の儀式をシベリア経由で伝えた」は物理的・年代的に不可能。槍で突かれた熊の頭蓋骨が祭祀の痕跡ではないかと言われているが、シベリアにいた人たちとライカ(アンデスのシャーマンのこと)との遺伝的・文化的な繋がりの証拠はない。

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