古代エジプト秘教学校 𓉐𓋹𓉐 pr-ˁnḫ 前編 知識と霊的世界の一体化
古代エジプトの天文学
ペル・アンクは文字と呪文を学ぶだけの教室ではなく、天空の読み方を知る場所でもありました。神殿の天井や棺の内部には星座が描かれ、書記たちは星を宇宙の地図として学んだのです。𓋴𓎛𓃃𓇼 サー(sꜣḥ、オリオン)はオシリスと結びつき、人は死後この星座に加わることで神と一体化するとされていました。𓇮𓏏𓇼 ソプデト(spdt、シリウス)はイシスを象徴し、毎年7月から8月にかけての時期に夜明け前に現れる「ヘリアカル・ライジング」がナイル川の氾濫の始まりを告げます。その氾濫は大地に肥沃な土を運び、田畑を潤して作物を育てる準備を整えました。氾濫が収まったら作物の種が蒔かれ、エジプトの農耕暦は新しいものになります。ソプデトはこの循環を告げる星として、再生と豊饒を象徴する星でした。
また、古代エジプト人は夜空を細かく区切り、現在「デカン星座」と呼ばれる36の星群を目印にしていました。夜明け前に見える星群を十日ごとにグループにすることで暦を作ったのです。書記たちはこの星群を時刻の目安にして祭祀を始めていました。パピルス・カイロ86637などの天文文書には各星群がいつ現れるかが書かれていて、祭祀には星の観測が欠かせなかったことがわかります。
それを余すところなく表現しているのは、占星術師にはおなじみのデンデラの天文図(ゾディアック)ではないでしょうか。プトレマイオス朝末期に制作されたゾディアックには、オシリスのサー(オリオン)、イシスを表すソプデト(シリウス)、デカン星群だけでなく、黄道十二宮も描かれています。牡羊座から魚座の十二宮はギリシャの影響を受けたものですが、エジプトでは神殿という空間に組み込まれ、従来の信仰と繋げられました。十二宮はエジプトの神々やシンボルと一緒に描かれ、天空の運行自体が神々の秩序であるという観念として表現されています。
ペル・アンクは、現代のアラビア語圏でも「世界最初の学校」「大学の原型」などと紹介されることがあります。厳密に言えば現代の大学とは異なりますが、一般的にも「学びと儀礼を一体化した場」として捉えられてきました。ペル・アンクは考古学の研究対象というだけでなく、今でも知識を学び、信仰を実践する場として記憶されているのです。