クランデリスモとメサ・ノルテーニャ 色と祭壇が彩る癒やし
南米ペルー北部、ランバイエケやピウラの町の路地裏。夜明け前の薄暗さの中、小さな灯のついた部屋がある。長い布を掛けたテーブルに、石や乾燥した植物、写真や聖像が整然と並び、ろうそくの火が揺れている。地元ではこれを「メサ・ノルテーニャ(mesa norteña、北部のメサ)」と呼ぶ。メサは机という意味のスペイン語だが、クランデロ(curandero、治療師)の祭壇のことだ。北部ペルー特有の治癒儀礼、クランデリスモ・ノルテーニョ(Curanderismo Norteño)にはメサが必要となる。患者や相談者はメサの前に座り、歌や祈り、煙や香りに包まれながら、クランデロの儀式を受ける。
メサ・ノルテーニャは、古くから伝わる民間療法の哲学が反映されている。ラテンアメリカの伝統医療では、身体や精神の不調を「熱(カリエンテ、caliente)」と「冷(フリオ、frío)」に分類し、植物や食べ物、儀式などによってバランスを取ってきた。炎症や発熱、過度の興奮状態は「熱」、無気力や悲しみ、血流や胃腸などに問題がある=流れが滞っている状態は「冷」となる。クランデロたちが使う植物は、molle(モジェ)、misha oso(ブルグマンシア)、ajo(にんにく)、ají(唐辛子)などの熱性(plantas cálidas)と、llantén(オオバコ)、cola de caballo(スギナ)などの冷性(plantas frescas)に大別されている。
患者の状態によって、メサの布や道具の色が選ばれる。赤やオレンジの布を広げれば部屋は血の巡りを促すような熱を帯び、心の奥に眠る意志や勇気が蘇ってくる。青や緑の布がメインなら場の空気は落ち着き、胸のざわめきや怒りが静まっていく。心理学や色彩理論とも共通するこうした効果が、祭壇の上に見える形で現れているようだ。
「今日は心が燃えている人が来るので、赤を多くしました」。クランデロはそう言って、赤い布を丁寧に整えた。別の日には淡い緑と白が選ばれ、その理由は「冷えが深い人が訪れるから」だった。現地では、患者の状態に応じて布の色が選ばれるが、それが必ずしも「反対の性質で補う」のか「同じ性質で引き出す」のかは一定していない。治癒師の流派やその日の意図によって柔軟に使い分けられているのだ。
メサには、幻視や精神的な開放を促すサボテン・サンペドロが祭壇に置かれることもある。植物と色彩のエネルギーが相互に影響して患者や相談者に働きかけるのだという。
暖色を中心にすると体が活性化し、倦怠や停滞を打ち破る助けになる。寒色を中心にした構成は、痛みやストレス、怒りや焦りといった「熱を持った状態」を鎮める。気持ちの上でも、暖色は行動や挑戦を、寒色は内省や安らぎを引き出す。ただし、どちらかに偏りすぎると逆効果になってしまう。大切なのは今の自分に必要な色を見極め、布や道具、植物を選んでバランスを整えることだとクランデロたちは言う。
メサ・ノルテーニャでは「この色はこういう効果」という決まりがあるわけではない。だが、患者の状態によって必要な色を選択する習慣が今も受け継がれている。決められた道具や手順ではなく、それぞれの祈りや状態に合わせてメサが創られる-これがクランデリスモ・ノルテーニョの奥深さなのだろう。先祖たちが受け継いできた伝統に敬意を払い、メサに自分や患者の祈りや願いを加えていく。この積み重ねこそ、北部ペルーで長く守られてきたヒーリング文化の真価なのではないだろうか。