神経可塑性の原則

脳は何歳からでも変わる ― 神経可塑性の話

 「もう歳だから新しいことは覚えられない」-そんな言葉を聞くことってありますよね。でも実際には、何歳になっても脳は変化し続けることがわかっています。脳の持つこの力は神経可塑性(しんけいかそせい)と呼ばれ、最近の研究で次々と驚くべき発見がなされています。

ロンドンのタクシー運転手の脳

 神経可塑性の研究の中でも特に有名なのは、ロンドンでタクシードライバーを対象にした研究です。2000年の研究で、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのエレノア・マグワイア博士を中心とするチームはタクシードライバーの脳をMRIでスキャンしました。

 ロンドンでタクシー免許を取るためには「ザ・ナレッジ」と呼ばれる試験にパスしなければなりません。半径10km圏内にある約2万5000本の道と数千のランドマークを暗記しなければならず、合格率は50%しかない難しい試験となっています。

 研究の結果、運転手たちの海馬(記憶や空間認識を司る脳の部位)は一般の人より明らかに大きくなっていました。しかも運転歴が長ければ長いほど海馬の後部が大きいという傾向がありました。もちろん生まれつき海馬が大きい人がタクシードライバーになるわけではなく、経験によって脳が物理的に変化した証拠です。

運動で脳が若返る

 運動も脳を変える力を持っています。ピッツバーグ大学のカーク・エリクソン博士らは、55〜80歳の高齢者120人を対象に1年間の実験を行いました。

 その結果、週3回・中強度のウォーキングを続けたグループは海馬の体積が約2%増加しました。一方、ストレッチのみを行ったグループの海馬は1〜2%縮小していました。高齢者の海馬は平均して年に1〜2%ずつ縮んでいくので、ウォーキングによって加齢による萎縮が止まり、むしろ大きくなったことになります。この変化は記憶テストの成績とも関連していました。

新しいスキルが脳を育てる

 新しいことを学ぶと、脳は驚くほど短期間で変化します。ドイツのレーゲンスブルク大学のボグダン・ドラガンスキー博士は、未経験の成人に3か月間ジャグリングを練習させ、彼らの脳の変化を観察しました。

 その結果、動きを視覚的に処理する領域(hMT/V5野)の灰白質が増加しました。興味深いことに、練習をやめて3か月後には増えた部分がほぼ元に戻ったといいます。脳は「使えば育ち、使わなければ縮む」のです。60歳前後の高齢者を対象にして行われた同じ実験でも、若者と同じように脳の構造が変化することが確認されています。

脳を変えるためにできること

 神経可塑性を味方にするために特別なことは必要ありません。有酸素運動、新しい趣味や言語を学ぶこと、楽器の練習、そして十分な睡眠—こういったことが脳の変化を促します。継続と「少しだけ難しい」ことに挑戦することが大切です。

 「もう歳だから」という言葉は、科学的には間違ったものでした。あなたの脳は今日も、変わる準備ができています。

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