女神イシュパパトルかツィツィミトルのカニバリズム儀式

『メキシコの神々』第一章・序論 1-3 メキシコ宗教の起源 ― 異文化融合と信仰体系の形成

※著作権の切れた書籍を翻訳・意訳して掲載しています。『The gods of Mexico』Lewis Spence 翻訳した文章©StellaCircus

メキシコ宗教の起源 ― 異文化融合と信仰体系の形成

 メキシコ宗教の起源をめぐる議論は、文明そのものの起源と不可分の関係にあり、16世紀の征服期以降、現在に至るまで多くの論者によって追究されてきた。だが、その全容はいまだ確定的な形では明らかにされていない。

 アステカ時代のメキシコ宗教は、極めて複雑な構造を持つ体系化された信仰だった。精緻な儀礼制度、階層的な神官組織、そして多数の神々からなる多神教的パンテオンが存在した。首都テノチティトランの大神殿区域には個別の神殿と祭司を持つ神々が集約され、それぞれが固有の信仰圏を形成していた。

 これらの神々の多くはアステカ固有の神と同一視され、部族間の宗教的連関や観念的な共通性を反映していると考えられる。ただし、その中には明確に異質な神格も含まれていて、これはメキシコ内部に「野蛮」と「文明化」という異なる文化的傾向が併存していた可能性を示唆する。

 この差異は、人種的な起源の違いに由来するのか、あるいは一方は未発展な環境にあって他方は社会構造の発展や外来文化の影響を受けた結果なのかは定かではない。一方の文化では神話や神学が精緻化している。一部に見られる修道制や精神的階層構造はメソアメリカ的ではない要素を含んでおり、宗教文化の一部が非アメリカ的起源を持っていた可能性もある。

 例えば北方の遊牧民チチメカは、簡素で非階層的な信仰を維持していた。だが彼らと民族的に近いとされる別の部族は、複雑な社会と祭祀体系の中で宗教を再編成し、国家的な宗教制度を築き上げた。外来宗教との接触や、神官による神話・儀礼の体系化が重要な役割を果たしていたと考えられる。

 結果として異なる起源を持つ要素が融合し、儀式や象徴表現において高度な芸術性を持った宗教体系が形成された。その多様性と精緻さは先住民のコーデックスを通して現在でも見ることができるが、信仰の統合過程を示す重要な資料となっている。

『メキシコの神々』ルイス・スペンス 序章
『メキシコの神々』第一章・序論 1-1
『メキシコの神々』第一章・序論 1-2 メキシコ宗教の古代性

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