デンデラ

古代エジプト秘教学校 𓉐𓋹𓉐 pr-ˁnḫ 前編 知識と霊的世界の一体化

 スピリチュアルを志す人間にとって、古代エジプトは神秘のヴェールに包まれた憧れの地ではないでしょうか。現代でも全く異なる文化圏でもあり、誤解の多い場所でもあるのではないかと思います。エジプトのミステリースクールという名称はたまに耳にしますが、では実際に記録が残っている霊的な学校はどのようなものだったのか、その教えと実践方法を見てみましょう。

𓉐𓋹𓉐 pr-ˁnḫ(ペル・アンク) 生命の家

 今でも世界中の人々が訪れる、神々とファラオの絵とヒエログリフに彩られたエジプトの神殿。そんな神殿の最奥部にひっそりと存在するのが「𓉐𓋹𓉐 pr-ˁnḫ、ペル・アンク」、直訳すると「生命の家」と呼ばれる場所です。アラビア語では بيت الحياة(ベイト・アル=ハヤー)と言い、一般的に図書館と呼ばれます。ここは図書室と学校を兼ねた場所で、科学偏重の現代では考えられない教育が行われていました。文書・天文学・医術などの「知識」と、葬祭・祈祷・呪術などの儀礼は同じくらい大切だと考えられていたのです。神に仕える者に対して教育を行うペル・アンクは、霊的な教育の中枢だったと言えます。

 実在する資料は散り散りになってはいるものの、後期王朝からプトレマイオス時代にかけてのペル・アンクが神殿付属の学校のような場所で、宗教的な教育の拠点となっていたことは明らかとなっています。アビュドスやエドフのヒエログリフには、「生命の家の書記はトートに奉仕して神々の言葉を扱う」とあり、この「言葉」は医療呪文や『死者の書』にある言葉を指します。デモティック文学『セトネ物語』では生命の家の書記セトネ(ラメセス2世の息子)が魔術を使ったことで裁判を起こされますが、書記は魔術を使えると考えられていたんですね。書記は知識人かつ祭司・魔術師でもあり、言葉の持つ力は祭祀や魔術に不可欠だと考えられていました。

 古代エジプト人にとって、文字は音を表す記号というより存在のエネルギーを入れる器のようなものでした。ヒエログリフは「mdw nTrw メドゥ・ネチェル=神の言葉」で、言葉を発すること(𓎛𓂓 ḥkꜣ、ヘカ)は宇宙の力そのものを呼び起こすものだったのです。ヘカは言葉に関する概念だったと同時に神格としても扱われ、「ヘカは創造より前から存在していた」と書かれたコフィン・テキストがあります。シカゴ大学東洋研究所のロバート・リトナーの論文『エジプト古代魔術のメカニクス』では、宗教・医療・魔術という区分は成立していなかったことが検証されています。図書館や医療所、祭祀施設という多機能性を持ったペル・アンクがこの区分の曖昧さを実証していると言えるでしょう。

 ペル・アンクが言葉と宇宙の力を探究する探求の場だとしたら、その力を実際の誕生や再生に結びつけたのが𓎛𓏘𓏏𓆏 ヘケト(ḥqt)です。ヘケトはカエルの姿で表される誕生の女神で、𓎸𓅱𓀭 クヌム(ẖnmw)の妻とされます。言葉の力・ヘカという抽象原理、声明を現実化するヘケトのペアは、古代エジプト人は言葉(力)と生命(現象)を結びつけていたことを表しています。

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