エリザベス・キューブラー=ロス

魂の旅路を照らした医師 エリザベス・キューブラー=ロス

Lynn Gilbert, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で

 エリザベス・キューブラー=ロスはスイスの精神科医で、1926年にチューリッヒで生まれました。三つ子の末っ子でわずか900グラムの未熟児だったといいます。三つ子という背景から、彼女は幼くして「自分とは何か」を考えるようになりました。そして、生涯に渡って生きる意味を考え続けることになります。

 16歳になった彼女は医療を志しましたが、父親の反対に遭って家を出ます。メイドとして働きながら学費を貯めていましたが、うまくいかず家に戻ることに。その後チューリッヒのカントン病院で働き始めた彼女は、初心を貫いて31歳でチューリッヒ大学医学部を卒業しました。卒業した次の年に大学で知り合った留学生マニー・ロスと結婚、彼の母国アメリカに渡ります。

 そこで終末期の患者への医療体制のひどさに愕然とした彼女は、やがてシカゴ大学ビリングス病院で「死とその過程」に関するセミナーを始めることになります。

『死ぬ瞬間』と死の受容の5段階

 キューブラー=ロスは200人以上の終末期患者と面談して対話を録音・分析しましたが、医師や看護師からは大きな抵抗があったといいます。死について話すようなインタビューは、患者たちに精神的な傷を与えるのではないかと心配したのです。彼女は婉曲な表現を使わず、「特別なお願いがあってここに来ました。重病で死にかかっている患者さんについて、もっと知りたいのです」という直接的な言葉を使いました。

 1969年、彼女は『死ぬ瞬間』を発表します。この本はノン・フィクションとしては異例のベストセラーとなり、雑誌『ライフ』にも取り上げられました。病院側の教授や指導医たちは「この女は死んで行く患者で我々を有名にしようとしている!」と怒り狂います。彼女は病院中の除け者となり、誰も彼女の味方はいませんでした。ですが暫くすると『ライフ』社には末期患者からの感謝の手紙が次々に届き、医科大学や教会からの講義やセミナーの依頼も入るようになったのです。

 『死ぬ瞬間』で、彼女は「死の受容の5段階」を提唱しました。否認、怒り、取引、抑うつ、受容という5つの心理的段階です。ただし全ての患者がこういった経過を辿るわけではないとも書いています。

否認
自分が死ぬということはないはずだと否認する段階。
診断が間違っている、患者の取り違え、診断機器の故障と考える人も。
怒り
なぜ自分が死ななければならないのかという怒りを周囲に向ける段階。
取引
なんとか死なずにすむように取引をしようと試みる段階。
神と取引して、延命できるなら生涯を神に捧げるなどの約束をする。
抑うつ
病気が長引くにつれて苦しみが増え、怒りは喪失感に変わっていく。
自分の人生を振り返り、生きる意味の探求を始める。
受容
自分自身の死を受け入れる段階。
「嘆きも悲しみも終えてまどろむ。赤子の眠りにも似た、だが逆方向の眠りだ。
このときのコミュニケーションはもはや言葉ではなく沈黙である」

 彼女は死に臨んだ静かな境地を「デカセクシス」と呼びました。自分自身を周囲の世界との関わりから引き離すという意味で、日本語の解脱、涅槃の境地、無我の境地などに該当します。仏教では修行を積まなければ涅槃に行けないとされますが、彼女は5段階のプロセスを通る十分な時間と周囲の人々の愛と協力-コミュニケーションがあればデカセクシスに到達できると考えていました。

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