古代エジプトの神秘学校 魂の再生と太陽への道
宇宙を安定させる秩序「マアト」
古代エジプト人は「マアト」と呼ばれる秩序・真理・調和によって宇宙が保たれていると考えていた。マアトは翼に象徴される女神となり、人間の行動がその基準に従うことで宇宙全体が安定するとされた。死後の審判では、オシリスの審判を受ける者の心臓はマアトの羽根と天秤にかけられる。永遠の生命を得るか、アメミットに喰われて復活できなくなるかという重要な審判でマアトの羽根が使われるのは、個人の倫理と宇宙秩序が直結しているという思想から来たものだ。
マアト=宇宙の秩序に従って生きるには、「正しい言葉・行い」を積み重ねる必要がある。自分さえよければいいという態度や、誰かに罵詈雑言を浴びせるなどの行為を行っているとしたら…。その人の心臓は喰われ、二度と復活できなくなるだろう。重要な女神であるにもかかわらず、マアトはスピリチュアルの中であまり注目されてこなかった。もしかしたら、マアトの示す「正論」が多くの人にとって耳の痛いものだからかもしれないし、道徳のようなイメージだからかもしれない。
死と再生の神話 オシリスの物語
古代エジプトで信仰の中心になったのは、オシリスの死と復活の物語だ。「オシリスは弟であるセトに殺され、その身体をバラバラにされた。妻であり妹でもあるイシスがその身体を探し集めて復活させた後、冥界の王として再び生きる存在になった」という神話は、死が絶対的な終わりではなく、変化するための通過点だということを表している。オシリスやファラオたちだけでなく、すべての人間の魂がこの変容の道を辿ると考えられていた。
スピリチュアルに関わる人はこのオシリスの物語に多少なりとも影響を受けているはずだ。多くの魔術的儀式は「死と再生」を象徴しており、儀式を受ける参入者は死後の世界を疑似体験する。光から暗闇、また暗闇から光という現世とあの世を行き来する体験は、死後の旅と現世に生まれる旅の予行演習をだったのだろう。
太陽神ラーの再生
太陽神ラーは、死と再生の象徴とも言える存在だ。夜になるとラーは護衛セトと共に船で冥界を旅し、アペプという大蛇と戦う。そして朝には再びこの世界に蘇るのだ。この神話は太陽の動きを象徴すると共に、魂の再生を表している。古代エジプト人はラーが復活するように死者の復活を願い、ミイラを作って身体を保存していた。
現代でも、太陽を思い浮かべながら「光で身体を満たす」瞑想などが行われている。シャーマニズムではタイタ・インティ、父なる太陽とも言われるほど、エネルギーに満ちた太陽。私たちは太陽…宇宙に広がる光がなければ生きることができないのだ。
ヘカという魔術
古代エジプト人が「ヘカ」と読んだ魔術は宇宙の根源的な力を使おうとするもので、その発動手段として使われたのが言葉だった。呪文や神名を正しく唱えることでヘカが働き、神々すらそれに従う。声に出された言葉はただの音ではなく、存在のエネルギーそのものだった。この考え方に基づけば、神の名を正しく発音すれば神はそこに現れる。ラーはその真名をイシスに知られたことで力を失い、魔術を彼女に教えることになった。ヒエログリフはこの世界にあるあらゆる自然や事象を絵にしたが、それ自体が霊的なエネルギーを持つ「生きた文字」だった。
名前=レンは、バーやカーと並んで人間が持って生まれてくる本質的な要素のひとつだった。日本でも名前をわざと少し歪めて呪うという方法が伝わっているが、これも名前の持つ力を利用している。マアトの項でも触れたように、ラーのエネルギーを体現するなら正しい言葉=マアトを語る言葉は必須だ。この理論からすれば、子供の名付けは自己満足や悪ノリでしていいはずがない。その名前は魂を定義し、未来を方向づける呪文そのものだからだ。
古代エジプトの儀式
古代エジプトの神殿は宗教的な施設であると同時に、神官たちの霊性を高める訓練の場でもあった。その内容には以下のようなものがある。
浄化 ナイルの水と香を使う。ピラミッドテキストには「香を焚き、神を喜ばせ、清める」とある。 オシリス神話の再現劇:アビュドスのオシリス祭などで行われていた。 祈祷と観想:カルナックやルクソール神殿の碑文で「神官は神像に供物を捧げて神を顕現させた」。 護符と道具:アンクやウジャトの目はパピルス文書などでも魂を守る力があるとされた。
古代エジプト思想が現代にもたらした影響
現在でも多くのミステリースクールが古代エジプトからの流れを主張している。古代エジプトの霊的な遺産は神秘学や神智学にも大きな影響を与え、私たちに引き継がれた教えとなった。上で記述したような内容は現代スピリチュアルではどうなってるかまとめよう。
マアト思想 → 「宇宙の法則」「カルマ(因果)」「調和」思想に オシリス神話 → 「魂の変容プロセス」「シャドウワーク」など、死を超えるワークに ラーの旅 → 「光の身体の覚醒」「アセンション」の基盤。ラーの復活は波動上昇や次元上昇 ヘカの魔術 → 「言霊」や「マントラ」、ヘルメス文書やグノーシス派の「ロゴス」に
私たちにとって古代エジプトのスピリチュアリティが魅力的なのは、人間が変容していく過程が鮮やかに描かれているからかもしれない。ヘルメス文書や西洋秘教に受け継がれた当時の思想は、現代の神秘学やスピリチュアルの基盤となっている。数千年を経た今でもその修行システムを実践できるのは、「宇宙の意志、神の意志」以外にどんな理由があるのだろうか。