オーバンのトナラマトル

『メキシコの神々』第一章・序論 1-7 アニマル・ゴッド

※著作権の切れた書籍を翻訳・意訳して掲載しています。『The gods of Mexico』Lewis Spence 翻訳した文章©StellaCircus

 メキシコ信仰の根を探るなら、農耕を軸とした信仰とは異なるさらに古い概念に注意しなければならない。農業そのものが始まったのとほぼ同時期に農耕神は現れたが、それより前には狩猟で命をつないでいた時代がある。その頃の神々は、しばしば狩猟の対象となった相手そのものの姿だった。獲物である動物たちは単なる食糧ではなく、その動物の形をした「神獣」が与えたものとみなされていた。

 いわゆる“トーテミズム”と呼ばれる信仰について、その本質は未だに明確な説明はできていない。だが、古代の人類が食用ではない動物を崇めていた例は各地に存在する。メキシコの神々にも動物が由来となったものが多く存在し、アナワク(メキシコ中部)で何かの動物の肉を食べることが禁忌となっていた例は確認できない。ただ、アナワク周辺の部族には食肉禁止の習慣が見られることがある。

 ウィツィロポチトリ(注:アステカの太陽神・軍神・狩猟神)はハチドリの特色を持ち、オーバン・コレクション(注:フランス人のアレクシス・オーバンが所有していたトナラマトルの一つを指す)に描かれる1日を支配していた13の神々は、すべて鳥の姿で表される。メキシコの13の天国のひとつは鳥の姿をした神々に割り当てられていて、ほかの天国の神々も動物の形をとる。

 テペヨロトルはジャガー、トラロックとケツァルコアトルは蛇、イツパパロトルは蝶と龍の合成体、テスカトリポカは蜘蛛や七面鳥、ジャガーとして描かれることがある。ミシュコアトルは鹿だ。だが動物として描かれる場合、多くは、トーテムというより象徴と見なすべきだろう。

 ナワリズム──征服以後の変質した信仰──では、その信仰を持つ者は人生の早い段階から特定の動物のスピリットと結びつくとされる。これは北米の多くの先住民に見られる“個人のトーテム”という概念に酷似しており、ユカタンのラカンドン族にも同様の例が確認される。

『メキシコの神々』ルイス・スペンス 序章
『メキシコの神々』第一章・序論 1-1
『メキシコの神々』第一章・序論 1-2 メキシコ宗教の古代性
『メキシコの神々』第一章・序論 1-3 メキシコ宗教の起源 ― 異文化融合と信仰体系の形成
『メキシコの神々』第一章・序論 1-4 メキシコにおける初期宗教の痕跡
『メキシコの神々』第一章・序論 1-5 成長の要素の神格化
『メキシコの神々』第一章・序論 1-6 原始的影響の証拠

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