スティーヴィー・ニックス

Talk to Me ─ リアノンに呪われた女 スティーヴィー・ニックス

境界の芸術家シリーズ

リアノンの召喚

 1973年のある日、スティーヴィー・ニックスは空港の書店で一冊の小説を手に取った。メアリー・リーダーの『トライアド』。そこに登場する「リアノン」という名前に惹かれ、帰宅後10分で曲を書き上げる。

 「ウェールズの魔女についての歌です」—彼女はステージでそう紹介した。黒いシルクのショールに身を包み、ステージで憑依されたように歌い踊る。バンドメイトのミック・フリートウッドは「あの頃の彼女の『リアノン』はエクソシズムのようだった」と評した。

 だが、スティーヴィーは曲を書いたとき、リアノンが女神だと知らなかった。ウェールズ神話の女神、古ケルト語の「リガントナ(Rigantona)、偉大なる女王」が語源で、馬を守護し、鳥を司る女神。中世ウェールズの『マビノギオン(Mabinogion)』に描かれたリアノンは、神の世界を捨てて人間の男を選んだ。スティーヴィーが書いた歌詞には「鳥のように飛ぶ」「夜を貫く鐘のように響く」というイメージがある。神話のリアノンには「アダル・リアノン(Adar Rhiannon)」と呼ばれる、死者を目覚めさせて生者を眠らせる3羽の鳥が付き従う。

 ファンからエヴァンジェリン・ウォルトンによる『マビノギオン』の翻案小説が送られてきたとき、彼女は映画化権を購入した。「日付を見たら、エヴァンジェリンの仕事が終わったところで私の仕事が始まっている」とスティーヴィーは言う。「神々によって—誰かによって—これが私の人生の次の20年になると決められていたみたい」—彼女は知らず知らずのうちに神話を召喚していた。もしくは、神話がスティーヴィーを器として選んだ。

神話が動き出すとき

 女神リアノンは、神々の世界を捨てて人間の王プウィル(Pwyll)を選んだ。だが息子が生まれた夜、世話をしていた侍女たちが居眠りをしている間に赤ん坊が消える。罰を恐れた侍女たちはリアノンの口に犬の血を塗り、「自分の子を食い殺した」と嘘をついた。リアノンは濡れ衣を着せられた挙句、城の門で来訪者に物語を話し、馬の代わりに彼らを背負って城へ運ぶという屈辱的な罰を受けることになる。

 息子は誕生直後に怪物の鉤爪に奪われ、遠く離れたグウェントの領主・テイルノンに育てられていた。成長した少年の顔があまりにもプイスに似ていたため、テイルノンは失踪した王子だと確信して両親のもとへ送り届ける。リアノンの潔白が証明されたとき、彼女はすでに7年間他者に奉仕し続けていた。

 1971年、スティーヴィーは高校で知り合ったパートナー、リンジー・バッキンガムと共にロサンゼルスで生活を始める。夢はミュージシャンとしての成功だったが、現実は過酷だった。リンジーは一日中床に寝転がってギターを練習するだけで、スティーヴィーがウェイトレスと掃除の仕事で生活を支える。ビバリーヒルズの1920年代風レストランでフラッパードレスを着て働く報酬は、時給1ドル50セントだった。

 「リンジーが働く必要はないと思っていた。ギターの練習をして毎日より輝いた存在になっていくのを見て、とても満足していた」城門で訪問客を運び続けたリアノンのように、スティーヴィーは日々リンジーに仕えていた。

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