《中国怪談地図》内モンゴル 砂漠の声と草原の幻影
中国の北に広がる大草原と砂漠の地、内モンゴル。この広大な土地には、今でも遊牧文化や騎馬民族の伝統に従って生きている人々がいます。そしてモンゴルはシャーマン発祥の地としても知られています。果てしない地平線と厳しい自然環境は、人々の心に霊的な感覚をもたらしてきました。怪談や伝承の多くも大地と孤独が結びついたものです。
鳴き砂の怪 バダインジャラン砂漠
内モンゴル西部に広がるバダインジャラン砂漠は「鳴き砂」で知られています。砂丘を登っていくと、まるで大地が唸るような低い音が響きます。この音は古くから「砂漠の神の声」や「亡霊の叫び」と呼ばれ、旅人を恐怖に陥れてきました。現代では摩擦による物理現象だと解明されましたが、地元の人々にとっては今でも霊的な現象と感じられるもので、「声を聞いたら砂漠に試されている」と言い伝えられています。
草原の白い影
果てしなく続く草原では、夜に白い影と出会うという話が絶えません。遊牧民のあいだでは「戦で倒れた戦士の魂」あるいは「草原を守る精霊」とされてきました。
「満月の夜、遠くに人影が立っていました。追いかけても同じ距離を保っていて、全然近づけない。気がついたら自分のテントの前に戻っていました」
この白い影は人に害をなすものではなく、道を踏み外した者を元の場所に戻す存在と信じられています。
ダラハイ 幽霊の湖
フルンボイル地方にはダラハイという湖があり、夜になると水面が光るそうです。これは溺れた者の魂が灯す光だと言われ、湖面に浮かぶ光を撮影した観光客もいました。ネット掲示板にも「カメラにはっきり写っていた」「ただの光の反射ではなかった」という書き込みが残っています。
シャーマンと狼
内モンゴルの遊牧社会で、狼は恐怖と敬意の対象となっています。そこでは狼の遠吠えが聞こえたら、祖先の霊が狼の群れと一緒に歩いていると考えられます。男性はボーゲ、女性はイドゥガンと呼ばれるシャーマンたちは狼を守護霊と見なし、狼の骨や毛皮を使う儀式も存在します。
シャーマンはドラムの音に導かれてトランス状態に入り、スピリットと交信します。精霊が宿る木や岩に供物を捧げ、狼の骨を身に着けて祈り、草原に満ちる音を「霊の言葉」として受け止めるのです。遊牧民の中には「狼の遠吠えの合間に人の声が聞こえた」「ドラムを打ったらもやのようなものが動いた」と言う者もおり、狼とシャーマンが影響し合った出来事として伝えられてきました。
果てなき大地の怪談
内モンゴルでは人々が向き合ってきた砂漠や草原、湖などの大自然を舞台に、距離の近い霊的な存在が描かれています。その世界観の中で自然そのものが霊となり、人々に語りかけてきました。内モンゴルの怪談は単に怖いものではなく、畏敬が入り混じった大地の記憶なのかもしれません。