頭三つの蛇
「よく聞いて花江さん、今から電話で祓うから協力してくれる?」
「は、はい!あの…電話でお祓いってできるんですか?」
多分大丈夫!女は受話器を肩口に挟み、事務用チェアの上で蓮華座を組んだ。呼吸を合わせてエネルギーを呼び込み、今いるビルと街、花江の店、そして地球と意識をリンクさせる、色のない暗闇の世界で何かを懸命に探す。絶対にあるはずだ、呪いの痕跡を消すのは…不可能!
「ビンゴ!」「はいっ?!」
神棚!神棚はどこ?「あります!どうすればいいですか!?」女が視ているのは黒い瘴気の手に包まれた神棚。
「神棚の扉を開けて!お札をいますぐ出して!」
「は、はい…今椅子に乗って…キャ――――――――――――――――――!」
「どうした!?」
「天照さまのお札がなくて代わりに…あの、あの髪の毛みたいな塊が!」
やっぱりそこだった!女は花江に、ゴム手袋をしてゴミ袋を広げ、その上に塊を置くように言った。花江は呻き声を出しつつも用意をした。
「その毛だか紐を切って中身を出してほしいの。気味が悪いかもしれないけどできる?」
「わたしがですか!?…やります!」
花江は意を決したように言い、その塊を見てえづいた。霊感が無くてもこれは良くないものなのだとわかる。受話器をスピーカーにして毛の塊と対峙する。あの人の髪の毛の色に似てる…思った瞬間背筋が冷たくなった。
「紙の筒?おみくじみたいに丸まっているものが出てきました!」
遠く離れた名古屋の店の神棚を視ながら、女はゆうこという人間の歪んだ思いの強さに呆れ果てていた。神の座するところに呪符を仕掛けるなんて…。
「イヤ!」花江の叫び声が聞こえた。どうした!?花江は小さな声で、画像を送ってもいいですか…と言った。間もなく送られてきた画像ファイルを開けて女の顔から一瞬血の気が引き、次の瞬間怒髪天を衝いて真っ赤になった。
「この外道が!こいつがやったのは外法!しかも下法!やってくれたなこの女!」
頭三つの蛇呪符だと…!?宇賀神さまを呪いに使いやがった!
「…なんですかこれは…?」
「頭三つの蛇ですよ…頭を書き足して神を化け物に変えたんです。これをすると神がその土地からいなくなることがあるのが外法と言われる所以です。ゆうことかいう奴は護符を呪いに使ったんです…ああ腹が立つ!」
女は蓮華座のまま呼気を使って神と繋がり、鋭い息をピューっと三度吐いて浄化を意図した。
ヒュー!ヒュー!シュッ!!
「先生!何だかお店が明るくなった気がします!」
無邪気に喜ぶ花江に答えながら違和感を感じた。祓った感触がないのだ。女は無意識に頭に手をやってギョッっとした。髪の毛がごそっと抜けたのだ。あの女呪い返しまで設定してやがった!本体は呪符じゃない、何か呪物を使ってる!
「花江さん!切った毛どうなってる!?」
「髪の毛…!?キャー!!動いてます!!」
「お酒か塩かけて!今すぐ!」
「せんせー!髪の毛が暴れながら伸びて動いていきます!」
「キッチンに行って!冷蔵庫の周りにこの女が置いてったものがあるはず!」