ムナイ・キ──歪められた形を見つめ直す (前) アンデスの秘儀とは?
それまで名前しか知らなかったムナイ・キに興味を持ったのは、古代エジプトの形而上学を実践していく中だった。地球は二元性で構成されているという結論からすると、エジプトと対になる場所があるはずで、もう一つの極はインカでしかないという結論になったのだ。
そして伝統に基づいたシャーマニズムのクラスを探していて、行き着いたのがアルベルト・ヴィロルドという人物で、オンラインでクラスを開講していた。そのスクールでは数ヶ月ごとに一つか二つのクラスが行われ、受付の時期を過ぎるとそのクラスは受けられなくなる。基礎・応用のレベルで複数のクラス、最上位クラスとして彼の教えを包括的に学ぶマスタークラスがある。マスタークラスに参加するのは時間的にも経済的にもかなりハードルが高いので、まずオンラインのクラスを片っ端から受けることにした。
そのクラスのひとつが、「ムナイ・キ」のクラスだった。日本では、ムナイ・キの背景がぼやけた形で紹介されてきた。よく「自分に伝授した師匠の師匠の師匠が創始者」などと書かれているのを見かけるが、その「創始者」がアルベルト・ヴィロルド博士だ。彼がこよなく信頼する妻のマルセラがムナイ・キのクラスを受け持っている。
医療人類学という分野で研究と仕事をしていたアルベルトは「西洋とインカの架け橋になれ」と言われたことがきっかけとなり、数十年に渡って伝統的なシャーマンたちから教えを学んできた。妻であるマルセラもまたアルベルトがきっかけとなってシャーマンの道を歩んできた人だ。彼らはアンデスやアマゾンに住むシャーマンたちの知恵と儀式を体系化してきた。そしてアルベルトが現代人のために再構成したのが「ムナイキ(Munay-Ki)」だ。
その「創始者の」ムナイ・キのクラスは11週間、彼らのクラスの中では最も長期に渡る。彼らのクラスはどれも、まず3日程度の無料のクラスから始まり、その後に希望者が本講座に進む形式だ。一週ずつ動画とテキスト教材が配信され、ティーチャーが毎週リアルタイムで説明を行う。マルセラやアルベルトは重要な儀式や伝授を行い、英語ではなくケチュア語の祈りでスピリットを呼ぶ。現代において重要だということで女性性に関するシピボの儀式が追加され、現在では10の儀式が行われている。これを英語やスペイン語で「13th Rite(13番目の儀式)」と表記しているサイトがあるが、これは女性の月経周期が1年に13回あること、13という数が古来より女性性と深く結びついているためで、公式には10の儀式となっている。
そのテキストには、はっきりと書いてある。これは、アルベルトがケロ族の長老の一人と共に創造した、現代のための儀式だと。
それまでに参加してきたアルベルトのクラスには「エデンの園から追放された原罪を癒やす」という共通のテーマがあったので、アニミズムの国に育った人間としてはしっくりこない部分を感じていた。ムナイ・キを含め9つのクラスを受けたあと、私は「インカのシャーマン」自身が教えているクラスを探し始めた。誰かが間に入っている教えではなく、直接彼らの哲学を聞きたかったのだ。結果として私はケロ族のシャーマンの教えを請うことにした。ケロ族の長老という言い方をすると1人しかいないような印象だが、そう呼ばれるような立ち位置の人間は複数いる。
話をムナイ・キに戻すと、日本では創始者がはっきり否定している「古代インカの神聖な儀式」として紹介されていることが多い。エネルギーの伝授、目覚めのプロセスなどとされ、伝授を受ければすぐ誰かに行えるとまで言われる。これも創始者の哲学とは真逆に近いので、なぜムナイ・キが現在日本で広まっているような内容になったのか調べてみた。