予言者

タイムラインと予言 無数の選択肢の蓄積で作られる未来

 2025年7月5日に大地震―そんな言葉がウェブ上で飛び交い、気象庁は統計的根拠はないと発表。漫画家・たつき諒は、夢で見た内容を表現しただけで「予言ではなく、夢の記録だ」と釘を刺した。それでも香港からのインバウンドは1割減り、SNSには不安が渦巻いた。「未来の言葉」が人々の生活を揺らしたのだ。漫画通り東日本大震災の3倍の津波が来たらアジア中が破壊されるだろうが、幸いなことに今のところその予言は成就していない…だが世界では現実となった予言も存在する。

 インド南部・カルナータカ州で生まれ育ったアビギャ・アナンド(Abhigya Anand)は、ヴェーダ占星術に基づいた未来予測を12歳から始めたという。2019年8月、自身のYouTubeチャンネルで「2020年3月以降、世界が大混乱に陥る」と発信した。惑星の配置―特に火星と木星、土星の組み合わせによる疫病と恐慌の兆候を読んだのだ。

 数ヶ月後、COVID-19が世界を襲う。彼の動画は注目を集め、その後も未来について語っている。2022年以降の中東での武力衝突、2025年の経済崩壊、地殻変動による災害。彼の予言は「日にちは外れるが、方向は外れていない」と評されている。

 「2025年3月4日、火と油に包まれた船が大事故を起こす」。日付まで予言したのはイギリスのサイキッククレイグ・ハミルトン=パーカー(Craig Hamilton‑Parker)だ。その前後に貨物船事故が起きて話題になった。彼もまた未来に言及している。2025年後半に欧州で極右政党の連立政権が成立、フランスでの暴動、中国での内乱、AI搭載ドローンや量子通信、宇宙開発による国家間の緊張…。アメリカでトランプ大統領が再び危機を迎えるが生き延びて再起するというものもある。

 時間そのものの構造から未来について語ったのがテレンス・マッケナ(Terence McKenna)だ。“タイムウェーブ・ゼロ(Timewave Zero)”は「時間は直線ではなく出来事の“密度”によって波打つ」とする時間モデルで、易経の六十四卦に基づいて時間の波を数学的に抽出、新規性(ノヴェルティ)の周期を示すとした。この波が向かう未来は、変化の密度が臨界点を超えて構造が反転、時間が知覚不能な速度まで加速…そして加速の果てに、時間自体が消失する。彼はその移行点を2012年と仮定した。

 SNSでの即時的な情報拡散、現実と虚構の混在、言葉と映像の暴走…。マッケナの描いた未来はすでに現実となった。時間は細くなり、行動の余白が消える。そして判断が追いつかなくなり、「次の未来」が「今」の中に現れるというものだ。その理論では、未来は遠くにあるものではなく「今」に凝縮されている。

 予言は語られた時点で選択を促す装置となる。人々が予言された未来に意識を向けたとき、回避可能な選択肢を提示するのだ。タイムライン理論では、時間は一本の直線ではなく無数の選択によってあらゆる方向に分岐する。例えば誰かが「行く」、別の誰かが「行かない」と決める。こういった違う選択の交錯で社会全体の未来は少しずつ変化していく。

 変化が蓄積して「未来の方向性」になるとき予言の可能性が生まれる。「この方向性の選択が蓄積するとこうなる」未来を言葉にするのが予言だ。だがその予言が拡散されて回避しようという意識が生まれると、その未来が選ばれない可能性が出てくる。回避に向けた選択が蓄積されていくからだ。これは量子力学の観測問題とも共通する。観測されるまで粒子の状態は確定せず、観測された瞬間に位置や状態が決定される。予言も同じように未来の一形態を観測しているが、それによって別の可能性が現れ、方向性がずれていく。

 予言は「見えなかった分岐点」に光を当てる装置なのだ。予言という光があることで人々は選択肢を認識し、行動を変える。そして変化の蓄積が、予言された未来とは異なる現実を作っていく。予言が外れたとしても、その予言が無意味だったとは言えない。むしろ人々が予言に反応したことで違う未来を現実化させたのかもしれないのだ。未来は決定されておらず、語られた瞬間から変質していく。

 予言は今この瞬間にいる私たちに「どの未来を選ぶのか」と問いかけてくる。ノストラダムスの大予言では、人類が滅亡するとされた1999年に財産を使い切ってしまった人や、地下シェルターを作った人もいた。自分も子供の頃に予言を知って、まだ小さかった従弟が20歳くらいで死んでしまうのか…と枕を濡らしたが、じゃあそれまでは楽しく生きようと思った。予言のおかげで現れる選択肢、その選択の蓄積で作られる現実。そう考えれば、予言と未来は互いに影響を与え合っているのだ。

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