古代エジプト秘教学校 𓉐𓋹 pr-ˁnḫ 中編 秘儀のカリキュラム
第四段階|マアトの天秤
エジプト神話に登場するマアトの審判を恐ろしく感じる人は多いのではないでしょうか。宇宙の法の女神であるマアトは天秤の片方にその羽を乗せ、もう一方には死者の心臓を乗せます。心臓が羽より重いのは罪がある証拠…怪物アメミットに食べられて復活は叶わなくなるのです。アデプトたちは師を前にして、「心臓よ、証言するな、罪を語るな。私はマアトを知る者である」と繰り返し唱えました。罪となる嫉妬や欲望の重さ、さらには恐怖心も落とすための訓練です。
第五段階|死の体験と再生
訓練はやがて象徴的な死の場面に入ります。アデプトは棺に横たわり、暗闇と静寂の中で数日を過ごしました。沈黙の訓練と同じように、ただ自分の呼吸だけが世界のすべてです。その中で「ink Wsir, ink m sȝ nṯrw(私はオシリス、神々の息子)」と声を絞り出します。そして「wbn.n.i m pt, ms.n.i m Ta(私は天に昇り、地に生まれた)」と繰り返し、死を越えて再び生まれるのだと自らに刻み込みます。やがて棺の蓋が開いて光が差し込むと、師はヘケトを召喚して「その息により、おまえは再び生きる」と告げました。アデプトはこうして世界に再生し、新しい存在として迎えられるのです。
第六段階|神名の発声とヘカ
アデプトたちは神の名を正しく唱えなければなりません。古代エジプトでは名前(rn)は人格の一部で、存在そのものを表すと考えられていました。イシスがラーの「真の名」を言わせてオシリスを復活させるための魔力を得たという神話があります。真名を知れば神の力が共有される・委譲されると考えていた彼らにとって、その名前を使った呪文が生まれるのは必至でした。「Dd mdw in Ra, ink Ra m khet.f(語るはラー、私は肉体に宿るラー)」と声に出すのは、宇宙の力・ヘカを自らに通すことそのものでした。正しくその名前を唱えることでヘカを通してラーの力を働かせ、現実を動かそうとするものだったのです。
古代エジプトのミステリースクールは「我死なず、我滅びず」という言葉をそのまま肉体に刻み込む階梯だったと言えます。無駄な話をしている者、口の軽い者、闇を怖れる者…それぞれが自らの超えなければならない領域を見つめ、それを超克することでしか神の領域に入ることはできない…それは現代でも生きている真実ではないでしょうか。