KV16

古代エジプトから考える分裂と統合(前編)-二元性でできた世界

 あるヘリオポリス神話では、自らの分身であり子供であるシュウとテフヌトが旅に出て帰ってこないのを心配していたラーが彼らの帰還に際して涙を流し、その涙から人間が生まれたと言われる。

 最初の混沌にはヌンとナウネトという男性原理と女性原理が含まれていたため、太陽神として知られるラーは男性原理・女性原理の両方を持っている。「無」そのものから生まれたのではなく、「無に見える全て」から生まれたと考えることが大切なのだ。「0であるヌン」から「アタムという1」が生まれたことは、0=1として表すことができる。アタムは意識であり、ラーという形を取って世界に顕現したとヒエログリフに刻まれている。アタムはラーそのものなので1=1となる。

 0=1=1 ヌン(ヌン+ヌウネト)=アタム=ラー

 アタムはあらゆる可能性の中で男性原理と女性原理という正反対のエネルギーが出会って生まれた。最初から矛盾を孕んだ存在だからこそ、文献や遺跡などで記録されている多くの国の創世神たちは泣いたり笑ったり怒ったりする「人間らしい」存在なのだろう。矛盾や葛藤のない存在なら、泣くなら泣くだけ、笑うなら笑うだけといった形になるはずだ。

 ラーが創造したシュウとテフヌトには、ラーの男性原理と女性原理がそれぞれに含まれている。シュウという1つの名前で表されるものの中には大気や風の男性原理と女性原理、テフヌトの中には火の男性原理と女性原理がすでに含まれている。私たちが2つの存在として認識するものには、すでに4つの原理が含まれていることになる。

 ラーは「自らの分身として」シュウとテフヌトを創造したという。ラーという創造神が「女性性と男性性を半分ずつ活用して生んだ」ことに着目すると1=1/2+1/2と表すことができる。シュウとテフヌトの子供であるゲブとヌウトはシュウとテフヌトの男性性と女性性をそれぞれ受け継いでいて、ラーから見た場合4分の1の要素を引き継いでいる。これはゲブ= 1/2²+1/2²、ヌウト=1/2²+1/2²で表すことができる。同様に、ゲブとヌウトが生み出したオシリス、イシス、セト、ネフティスはゲブとヌウトから8つの男性性と女性性を受け継いでいるので、ラーから見ると1=(1/2³+1/2³)となる。ひとつ代を経るごとに累乗の数がひとつずつ増えていくことになるのだ。

 次にオシリスとイシスの子供としてのホルスを表そうとしたら、さらに親の分の男性性と女性性分を付け足すことになるので1/2⁴+1/2⁴で表すことができる。これはラーの要素が、ひとつ代が増えるごとに分割されていくことを表している。逆に累乗の数はどんどん増えていき、最終的には1/∞+1/∞となる。

0=1=1=(1/2+1/2)+(1/2²+1/2²)+(1/2³+1/2³)…(1/∞+1/∞)

 生物を分解していくと細胞になり、細胞の中には分子があり、原子があり…と考えると、分解した最終形である∞のペアは素粒子を表すことになる。そして、人間もこの式の途中のどこかの数で表されている。

 だが、実際には∞は数字ではない。「どの数よりも大きい数字」という概念なので、この式を逆算しようとすると

∞=∞=∞=(∞/∞+∞/∞)=(∞/∞+∞/∞)…(∞/∞+∞/∞)

 すべての数字が無限大に置き換えられ、0=∞、1=∞/∞、すべてが等しくなるのだ。つまり「逆算=分裂していく流れ」に逆らうとき…例えば「統合」に向かうとき、神も自然も人間も、ありとあらゆるものがすべて等しい存在になる。

 これこそが神の視点から見たときに起きていたことだ。シュウとテフヌトにはそれぞれ男性原理と女性原理が含まれるのだから、人間から見て0から1が生まれたとき、神的な視点からは無限から無限の2が生まれたことになる。無限の中のある要素に2という形式を与えたと言えるかもしれない。「分身として創造した」ということは、その価値は変化しないということであって、「無限の存在」から「制限された小さな存在」になったわけではない。私たちが一柱の神だと思っているものは、ラーから細分化した各原理のことを指している。

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