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古代エジプト秘教学校 𓉐𓋹 pr-ˁnḫ 中編 秘儀のカリキュラム

古代エジプト秘教学校 𓉐𓋹𓉐 pr-ˁnḫ 前編 知識と霊的世界の一体化

 前編では古代エジプトのミステリースクールとも言えるペル・アンクの概要について書きました。中編では、一歩進んで入門者(アデプト)たちがどのようなカリキュラムで学びを進めていたのかを見ていきたいと思います。

第一段階|沈黙

 アデプトたちがまず最初に学ばなければならないのは、沈黙の価値でした。ただ声を出さずにい続ければ合格というものではありません。沈黙は絶えず体の内側で起き続けるざわめきを抑え、神の声を聴くための準備のためのものでした。神殿の一室にこもり、呼吸と心臓の鼓動を感じながら静寂の中で過ごす数日間。やがて外界の音は消え、耳の奥で自分の血が流れる音が聞こえるようになります。それは神の音が聞こえるようになった証で、師は「それはお前自身が出す音ではなく神々の声だ」と伝えたと言います。

 実際、古代エジプトの神殿には「沈黙の義務」があったことが確認されています。エジプトの秘教的な儀式について記した英語資料には、神殿の聖所は「声なきままに聖なるものに従う者だけが通れる」と書かれており、アデプトは沈黙を通じて霊的に試されていました。神殿に入る者は声を出さないという意味でも、秘密を口外しないという意味でも「沈黙」が求められていたのです。「沈黙できる者」でなければ、物理的に神聖な領域である神殿にも、霊的に神聖な領域にも入ることはできません。

第二段階|星々という地図

 夜には外に出て空を見上げます。前編でも書きましたが、古代エジプト人にとって星は魂が死後に辿る航路を描く地図でした。オリオンはオシリス、シリウスはイシスの星です。アデプトは背骨をオリオンの角度に合わせて伸ばし、呼吸をシリウスの瞬きに重ねます。そうしているうちに身体は星と一体化し、自分自身が天空に存在するように感じ始めます。観測は見るだけではなく体験することで、死後の旅を生きている間に体験するための修行でした。

第三段階|呪文の声と神との合一

 暗い神殿の奥に灯された炎がゆらめき、壁一面に描かれた神々の中で『死者の書』が朗誦される…。副葬品として知られる『死者の書』ですが、実際には声に出して読むことが前提です。「Dd mdw―言葉が語られた」から始まる呪文はセティ1世墓やラムセス6世墓に描かれ、パピルス・アニにも「葬送の際に朗読せよ」という指示があります。アビュドスやルクソールの神殿にも「Dd mdw」で始まる呪文があり、祭祀でも使われていたことがわかります。現代で言えばお経を学ぶように学んでいたのでしょう。エジプト学研究者たちは「死者の書は死後の案内書であり、生者が死を体験するための書でもあった」と解釈しています。

 沈黙の訓練を行ってきたアデプトたちは沈黙を破り、呪文を声に出しました。自らを「Dd mdw in Asar N. ḫem-neter mAa ḫeru(語るはオシリスなるN、真理の声をもつ者)」と名乗り、「nn pw mtw.f mwt, nn pw mtw.f dmj(我死なず、我滅びず)」と宣言する呪文は、冥界を旅するためにわが身を変えるためのものでした。

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