マヤ遺跡・ウタトラン

『メキシコの神々』第二章・2-1 メキシコ神話における世界創造

Éclusette, CC BY 3.0 https://creativecommons.org/licenses/by/3.0, via Wikimedia Commons
※著作権の切れた書籍を翻訳・意訳して掲載しています。『The gods of Mexico』Lewis Spence 翻訳した文章©StellaCircus
創造神話の多様性

 世界と人間の創造については、メキシコ神話に精通した人々の著作でも曖昧かつお互いに矛盾している。こうしたの不一致は創世神話の起源が地域ごとに異なるためだと考えられるだろう。ただし、地球の創造や再構築を担った神々に関しては明確な点がある。創世神話を解釈したコデックスでの記述が、グアテマラ・キチェ族の神話『ポポル・ヴフ(Popol Wuj)』や同系統のマヤ文明の創造物語とほぼ同じなのだ。

トナカテクトリとケツァルコアトル

 コデックス・テレリアノ=レメンシス(the Codex Telleriano-Remensis)では、神トナカテクトリ(Tonacatecutli)はこう描かれる。「彼がよしと思ったとき、彼は天と地の水(当初は混沌としていたもの)に息を吹きかけ、それを分けて現在あるように配置した」。そして「彼は息を吹きかけることでケツァルコアトル(Quetzalcoatl)を生んだ。女性との交わりによってではなく、彼が一人で」。

 この最初の男性神トナカテクトリと対応する女性神トナカシワトル(Tonacaciuatl)は、『ポポル・ヴフ』で「緑の羽毛に覆われた蛇」とされている。この神々はコデックスの後半で「キチェ族の神イシュピヤコック(Xpiyacoc)とイシュムカネー(Xmucane)」として描かれるものとほぼ確実に同一だ。彼らはメキシコのオショモコ(Oxomoco)およびシパクトナル(Cipactonal)とも同一視されているが、オショモコたちもトナカテクウトリたちと同一か、もしくは非常に密接に結びついている。

 『ポポル・ヴフ』でのケツァルコアトルはグクマッツ(Gucumatz)という名前になっているが、これはキチェ語での呼び方だ。「風」や「息」を意味するこの名前は「霊」や「生命」とも考えられている。おそらく豊穣をもたらす水の神的な側面も考えられていただろう。

ケツァルコアトルによる創造とテスカトリポカ

 マドリードのアカデミア・デ・ラ・ヒストリアに所蔵されているサアグンのコデックス(Florentine Codex)には、「彼らは言う。『我らを作り、創造し、形にしたのはトピルツィン・ケツァルコアトルだ。彼が天と太陽と大地を造った』」とある。コデックス・チマルポポカ(Codex Chimalpopoca)の一部『アナレス・デ・クアウティトラン(Anales de Cuauhtitlan)』では、「ケツァルコアトルは人類を四種、すなわち世界の四つの“太陽(=時代)”に属するものとして創造した。彼は”7つの風”の日に創造を行った」と描かれた。

 後に見ていくが、創造の働きは『メキシコ人の絵画による歴史(Historia de los Mexicanos por sus Pinturas)』で、ケツァルコアトルとテスカトリポカによるものだと説明されている。キチェ神話で「神々が集まって世界を作る相談をする場」である「創造の評議会」にはフラカン(Hurakan)という神がいるが、これはテスカトリポカに他ならない。つまり、テスカトリポカは一つ以上のメキシコ創世神話でケツァルコアトルと密接に結びついているのだ。

 サアグン写本(マドリード・アカデミア・デ・ラ・ヒストリア所蔵)には「彼(トピルツィン・ケツァルコアトル)こそが、私たちを創り、形づくり、創造した者であり、天も太陽も大地も彼が作った」と書かれている。また『アナレス・デ・クアウトゥトラン(チマルポポカ写本)』にも「ケツァルコアトルが四つの太陽期それぞれに属した四種の人類を創造した」とある。人間は「7つの風(シウァトル)」の日に彼によって創られたのだという。

 創造の細部については『絵画で語るメシカの歴史』で、ケツァルコアトルとテスカトリポカが共に働いて世界を創ったという伝承が示されている。最後に、キチェ族の天界における「創造会議」にはフラカンという神が登場するが、この神はテスカトリポカと同一視される存在だ。少なくとも一つのメシカ創造神話においてケツァルコアトルと密接に結びついているとされる。

『メキシコの神々』ルイス・スペンス 序章
『メキシコの神々』第一章・序論 1-1
『メキシコの神々』第一章・序論 1-2 メキシコ宗教の古代性
『メキシコの神々』第一章・序論 1-3 メキシコ宗教の起源 ― 異文化融合と信仰体系の形成
『メキシコの神々』第一章・序論 1-4 メキシコにおける初期宗教の痕跡
『メキシコの神々』第一章・序論 1-5 成長の要素の神格化
『メキシコの神々』第一章・序論 1-6 原始的影響の証拠
『メキシコの神々』第一章・序論 1-7 アニマル・ゴッド
『メキシコの神々』第一章・序論 1-8 雨の神格化、生贄
『メキシコの神々』第一章・序論 1-9 メキシコ後期における信仰の要素
『メキシコの神々』第一章・序論 1-10 メキシコ宗教に見られる文化的要素
『メキシコの神々』第一章・序論 1-11 ケツァルコアトル信仰の広まり
『メキシコの神々』第一章・序論 1-12 黒曜石への信仰
『メキシコの神々』第一章・序論 1-13 メキシコにおける信仰の統一

『メキシコの神々』第二章・2-1 メキシコ神話における世界創造

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